ダイダラボッチの考察ー山岳信仰と仏教の神仏習合の象徴として
日本書紀と仏教伝来以降の神仏習合を調査していて気づいたことがある。
ダイダラボッチは神仏習合の歴史を今に伝える伝承なのではないだろうか。
ダイダラボッチの伝承は関東に広く存在する。
ダイダラボッチの伝承が伝わる静岡県や群馬県、茨城県の各土地の場所を地図に落とすと、日光ー上越ー秩父、そして大山を含む箱根山系によって形成される関東平野を囲む山地に沿ってこの伝承が伝わっていることが分かる。
(参考画像 https://kakuyomu.jp/users/gonnozui0123/news/16817139556148339715)
興味深いことに、関東に古くからあって山岳信仰の中心となった神宮寺がこのラインに沿って存在する。
神宮寺とは、奈良時代以降の神仏習合の考えによって神を祀るために設置された仏教寺院のことである。鹿島神宮、熱田神宮、賀茂神社、宇佐八幡宮、そして伊勢大神宮が平安時代までに神宮寺となった。
明治維新期に行われた神仏分離まで、日本の神道と仏教は分かち難く結びついていたのである。
さてここで日本に先史時代からあった祭祀神道は、山を信仰の対象とする山岳信仰であったことを確認しておく。現存する古い神社がその背後にある山を御神体としているのがその名残である。
もっとも有名な山岳信仰は富士山である。最古の神社と云われる三輪神社は三輪山を御神体とし、奈良春日大社は御蓋山がいまも禁足地である。大分県の宇佐神宮の御神体である大元山には三女神降臨の伝承が伝わる。
関東では、神奈川県大山阿夫利神社、武蔵野国御岳神社、秩父三峰神社、上毛榛名神社、日光二荒山神社が古くから山岳信仰を伝えている。それぞれの神社は修験道の地としても有名であるが、その修験道こそ山岳信仰と仏教が融合した信仰である。
先史よりあった山岳信仰と六世紀に日本に渡来した仏教の融合はある程度政治的に行われたと考えられている。
七世紀以降、朝廷は仏教から派生した律令制というシステムで日本を統治するために政治機能を持った政庁と国分寺・国分尼寺を全国に建立した。同時に朝廷政府から命を受けた伝導僧は、未だ社宮を持たなかった各地の山岳信仰に寺院様の伽藍をもたらした。この伝導に空海が主宰となる宗教集団が関与していたと思われる。
政府が山岳信仰を手中にすることは、統治が及んでいない地域の精神的支柱を手に入れることになるため、この融合はかなり慎重に、かつ強引に推し進められたのではないだろうか。
それが山岳信仰における神仏習合のはじまりだと、現時点で私は理解している。
姿を持たない自然神を崇めていた原始的な山岳信仰に、政府から本地仏という実体が与えられた。だが神=自然の持つエネルギーは、仏サイズ=人間サイズというイメージに帰結しなかった。
そのため、もやもやと大きい人型の何かが初期神仏習合の寺院もしくは神社において祀られるようになった。
その何かは、各地の山岳信仰の場に「政府から同じ命令を受けた同質の伝導僧」が訪れたことで、関東の広い範囲に類似したイメージとして共有された。
もやもやと大きい人型の何か。それがダイダラボッチと呼ばれるものになったのではないだろうか。だからこそダイダラボッチの出現範囲が山岳神宮寺の存在場所と重なるのではないだろうか。
ダイダラボッチの国造りとは神話の時代の国造りではなく、朝廷が仏教という後ろ盾を得て日本に律令国家を成立させていく過程の「国造り」を指していることになる。ダイダラボッチの伝承のイメージは、歴史と非常に近似していると言い得るのである。
柳田国男の「一つ目小僧」には「武蔵野地にだいだらぼうの足跡があらわれた」という記述がある。これは武蔵野の地で大きい足跡のようなものを発見した人の口承なのだが、その発見者は地方から東京に上京した人だった。自分の故郷に伝わる巨人ダイダラボッチの伝承を思い出し、他の人にそう伝えたのである。
はるか昔にあった出来事を映した伝承は、やがて意味が失われたまま本来と関係のない土地にも拡散していく。ダイダラボッチは神仏習合の歴史を今に伝える伝承なのだと私は考える。
伝承と神仏の習合 葛西 秋 @gonnozui0123
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