第9話 法律の破綻

 さくらと高杉は、その時、いろいろもっと言いたいことがあったのだが、ちょうど時間となったので、出なければいけなくなった。

「せっかくいいところだったのにね」

 と高杉がいうと、

「ええ、こういうお話できる人があまりいないので、もっとしていたい気がするわ」

 とさくらも言った。

「まあ、次回までには、新しい話を考えておくよ」

「ええ、ありがとう」

 と言って、その日は別れた。

 男によっては、連絡先を教えてほしいという人もいるかも知れないが、高杉はもしさくらが、LINEを交換してくれると言っても、しないような気がした。

「風俗嬢とはあくまでも、その小部屋だけでの疑似恋愛」

 という気持ちを律義に守っていた。

 高杉の考えとして、

「疑似恋愛を楽しむ相手との間には完全な一線を画して、お互いに想像力を膨らませる仲の方が、お互いにいいだろう」

 と考えていた。

 さくらもきっと同じであろう。

「高杉さんになら、LINEくらいならいいかも知れないわ」

 と思っていたが、高杉がそれを言い出さないのは、彼なりに考えがあるからだということは分かっていた。

「高杉さんという人は、私に似ているところがあるけど、決して自分を明かさない何か結界のようなものを持っているのかも知れない」

 とさくらが思っていれば。高杉の方も、さくらに同じ間隔を抱いていて、その理由としては、

「さくらさんが風俗嬢だという意識が強いからかな?」

 と考えていることだった。

 さくらは、高杉との間に、風俗嬢と客という関係よりも、もっともっと近い関係にあるというのを自覚していた。

 しかし、高杉の方は、逆に、他の風俗嬢と比べても、さくらには、超えてはならない結界のようなものがあって、それだけに神聖に見えるのではないかと思うのだった。

 そういえば、

「身体の関係になるわけではなく、感情だけでの恋愛というものが果たして成立するのだろうか?」

 と考えたことがあった。

 いわゆるプラトニックラブというやつである。

 高校時代くらいであればありえるとは思うが、高杉は根本的にありえないことだと思っていた。

 その理由は、

「愛情というものは、思春期になって感じるものであり、それは、自分の肉体が女性に対して反応し、それが恋であるということを認識するようになることで感じるものではないか?」

 と思っているからだ。

 まずは、身体が反応し、精神的にその理屈を納得するのが早いのか、精神的に好きだという気持ち(プラトニックラブ)が存在してからこその肉体の反応なのかということを考えてしまうのだが、どちらにしても、肉体の発達があるのは間違いない。EDは最初からEDであったわけではなく、何かの原因があってこそのEDなのだ、だからこそ、その原因を突き止めることが先決なのだが、それには勇気がいるというもので、その勇気を得るために何をしなければいけないのか、分からないところが人間だということなのであろうか?

 どこの病院に罹るにしろ、バレると、多くな反響になるのは分かっていることだ。ただ、高杉のように、最初から原因が分かっていれば、どうすればいいのかということも、想像がつくというものだ。最初から、飽食状態での身体が反応しない。それどころか、吐き気を催すほどの拒絶を身体が示すのであるから、厄介ではあった。

 しかし、世の中には、風俗という、自分のような人たちを救済してくれる施設があり、今では市民権を得ているというのが嬉しかった。まだまだ、人によっては偏見の目で見る人もいるだろうが、そんなものを気にするくらい、今までの悩みからすれば、何でもないことだ。

 しかも、

「俺には恋愛や結婚なんて永遠にできないんだ。それどころか、セックスだって、気持ちいいなんて気持ちが起こるわけはない。人生で半分以上の楽しみを奪われたかのような気分だった」

 という思いが強い。

 その風俗で知り合った女の子とこのような深い話、しかも、今までしたかったけど、誰ともできなかったような話ができるというのは、嬉しかった。

「まわりの人、誰もができないような話を、俺は女の人とできるんだ」

 と思うと、自分がお金を払ってでも時間を買うという気持ちに正当性を感じられるので好きであった。

「さくらさんと、こうやってお話ができるのは、本当に嬉しいことですね。さくらさんにも、同じように僕がさくらさんに対してのような相手がいるんですか?」

 と聞くと、

「いますよ。女性なんですけどね。その人とは私が借金問題で悩んでいる時、偶然呑み屋で知り合ったんだけど、その人にはどうやら夢があったようで、その夢を諦めなければいけないような状態まで追い込まれていたようで、かなり酔いつぶれていたんですよ。私は話を訊いてあげると、気分が晴れたのか、それから仲良くなって、お互いに人には言えないような話をお互いに共有しようねという話ができる仲になったんですよ」

 とさくらはいった。

 その相手というのが、まさか自分の会社に勤めている弘子だとは知らなかったので、

「それはよかったね。誰にでも一人でいいから、そういう相手がいれば、人生何とかなるって思えるものなのかも知れないな」

 と高杉は言った。

「私もね。こういう商売をしていると、いろいろな人の話を訊くじゃないですか。しかも私の場合は、借金問題という、まあ言ってみればベタな理由で風俗に入ってきたので、他の人の悩みに対して、自分ほどの悩みを持った人なんていないんだろうというくらいに思っていたのよ。でも、話をしてみると、実際には、結構大変な道をくぐってきた人もいるようで、最初の頃の私はそれも分からずに、ある意味、自分以上の不幸な人なんかいないと思っているもんだから、変な意味での上から目線になっていたのね。それを一度諫められたことがあったの」

 とさくらはいった。

「ほう、どういう感じでかな?」

 と訊かれて、

「その人は、会社が倒産して、従業員の一人に会社の金を持ち逃げされたらしくて、家族も逃げ出して、独りぼっちだったんだって、でも、才能がある人だったので、その才能を生かしてやり直して、今は、人並みの生活ができるようになったって言っていたのね。その人から言われたわ。世の中、誰だって、思い通りになる人なんか一人もいないんだからねってね。それを聞いて、私は自分の悩みを気が付けばその人に話していたわ。もちろん、彼も私に話してくれてね。その時初めて、その人の言葉の意味が分かった気がして、スーッと気が楽になったのね。そんな気持ちになったのって、高杉さんが最初にお相手してくれてから初めてだったかも?」

 とさくらはいった。

「俺も、君の役に立ててるんだね? それは嬉しいよ」

「もちろん、そうよ。私が自分の話をする人って、本当に信用した人にしかしないもん。本当であれば、こういうお店では、過去の自分の話というのは嫌がる人とかも多いだろうからしないようにしてるんだけどね」

 とさくらは言ったが、

「さくらさんはそういうタイプだよね。人に気を遣って、自分を隠そうとする。皆大なり小なりそういうところがあるんだけど、さくらさんの場合は、それが自然に感じるんだよ。僕を相手にしているからかな?」

 と高杉がいうと、

「ええ、その通り。高杉さんと一緒にいるのが私にとっては、幸せの極みと言ってもいいかな?」

 と、べた褒めであった。

 高杉との話の中に出てきた弘子とのことであったが、さくらは、最初から弘子と友達になろうという意識はなかった。しかし、泊めてもらったことで恩義を感じた弘子が、その翌日にまたさくらの部屋を訪れて、

「昨日はどうもありがとうございました」

 と言って、ケーキを持ってわざわざお礼に来てくれたことが嬉しくて、一緒にお茶をすることで、すっかり打ち解けてしまった。

 前の日までは、どうしても、酔いつぶれた状態だったので、お互いに相手がどういう人なのかということが分からなかった。

 弘子の方としては、

「私のような酔っ払いを泊めてくれて、何て優しい人なんだろう?」

 という思いと、さくらの方では、

「毎日一人で思い悩んでいたので、ちょうどいい気分転換くらいにはなるかな?」

 という思いであった。

 ある程度は借金を返すための、風俗で仕事をする覚悟は固まっていたことも、さくらにはある程度、心に余裕ができてきたのだろう。

 さくらは、もうかつての男のことは忘れていた、正直、むかついている感覚は残っているが、愛情などは消え去っていて、

「男は騙すものだ」

 という意識を強く持っていたことで、男に対しての毛嫌いがあった。

 それでも、風俗で働かなくていけなくなった自分が、毛嫌いをしている男を相手にできるのかどうか、それが問題だった。

 その問題は、高杉が最初の相手だったことで、ある程度、解消できていたのだが、それはあくまで結果論、それまではかなりの不安があったに違いない。

 男というものに対してトラウマが残ったことで、相手が男だということによるものか、それともセックス自体に対して、拒絶反応のようなものが出てくれば、その時はどうすればいいのかという悩みが強かったと言ってもいいだろう。

 その日、弘子と世間話をしていると、さくらの方も久しぶりに人と話した喜びもあってか、結構アルコールが進んだ。実際にアルコールに対してはさほど強いわけではないさくらは、、結構ほろ酔い気分になってから、その後の記憶が半分ないくらいになっていて、最初からそれが目的だったのかは分からなかったが、弘子が解放してくれた。

 前の日と逆になっていたのだが、さくらは気付けば、心地よさに自分がまるで宙に浮いているかのような錯覚になっていた。

 いつの間にか、自分の部屋のベッドに寝かされていて、すでに裸になっていた。その身体を、同じようにすでに裸になっている弘子が愛撫していたのである。

「女は、女が一番感じるポイントを捉えることができる」

 という話を訊いたことがあったが、まさにその通り、金縛りに遭ったかのように、弘子の指から逃げることができず、一定の短い間隔で、弘子の指に身体が海老ぞってしまうほどに感じていた。

 痙攣していたと言ってもいいくらいで、

「ああ」

 という声も漏れていた。

「気持ちいい?」

 という言葉に、黙って頷くしかできなかったさくらを見て、弘子は満足そうな顔をしている。

 その顔が淫靡な様相であり。厭らしさに酔いしれている自分に、罪悪感はなかった。むしろ、

「こんなにも気持ちいいことがあってもいいのか?

 と思うほどで、

「いいのよ。今までいっぱい我慢してきたんだから、自分を解放してあげなさい」

 と、弘子が耳元で囁くたびに、何度も痙攣をおこしていたさくらだった。

「あなたは、相当何かに耐えてきたのね。もう我慢することはないのよ。私にすべて委ねてちょうだい」

 と弘子は言った。

「ああ」

 という溜息しか出ないさくらだったが、弘子はさくらを蹂躙しながら、さくらがその間に何度絶頂に達したのか、そのたびに満足そうな顔をしていた。

「やっぱり、あなたは、私の思っていた通りの人だったわ」

 と弘子が言った。

「どういうこと?」

 と夢見心地でさくらは言った。

 何度も達しているうちに、身体の痙攣が収まってきて、返事もできるようになってきた。心地よさは相変わらずであったが、気持ちが戻ってきたのは、快感に慣れてきたからであろう。

「あなたは、昨日、私を見ながら、自分の現状と比較して、気持ちの中で自分を慰めているような気がしたの」

 というのを聞いて、急に顔が真っ赤になったさくらは、

「慰める?」

 と聞きなおした。

「ええ、そう。あなたは私を見ながら、自分の心の中でオナニーをしていたでしょう? といっても、あなたは自分で気付いていないかも知れないけど」

 という弘子に対して、さくらは二つの懸念があった。

「どうして、本人が分からないことをあなたが分かるの?」

 という思いと、

「人って気持ちの中だけでオナニーなんてできるのかしら?」

 という思いだった。

 後者に関しては、

「妄想でオナニーをしてしまうということはあると思うんだけど、妄想をしているわけでもないのに、オナニーだけって、そんなの可能なのかしら?」

 という思いがあったからだ。

 弘子は、さくらが混乱しているのに乗じて、さらに身体を責めてくる。

 絶頂寸前で、寸止めをしてみたりと、テクニックを要している。その瞬間に浮かべる妖艶さを、さくらは我慢できずに、またしても果ててしまうことに利用していた。

 そんな状態に、さくらの身体は次第に溺れていく。

「私って、レズビアンだったのかしら?」

 と独り言のように呟くと、

「いいえ、あなたは、きっと両刀なんだと思うわ。レズの人の中には、男性とできなくなったことでレズに走る人もいるけど、基本的には男性にトラウマがある人なのね。あなたは男性に対してトラウマを持っているけど、それは精神的な恨みによるトラウマで、肉体的なトラウマではない」

 と弘子は言った。

「どう違うの?」

 とさくらが聞くと、

「精神的なトラウマというのは、あなたが今抱えている現実的な問題から、男性を毛嫌いしているという感覚ね。でも、肉体的な感覚というのは、自分の性劇と相手の性癖がまったく違っているという状況だったりした時に感じることなの。肉体的なトラウマの方が、解消するには結構大変なのかも知れないわね。だから、あなたは、精神的なトラウマなので、たぶん、私のあなたへの癒しによって、その問題は解消できると私は思っている。だからあなたは、私に委ねていればいいのよ」

 というではないか。

「ええ、そうさせてもらうわ。私も男性とのセックスができなくなると、実際的な問題として困ってしまうから」

 と言った。。

「あなたになら、何でも話せる気がするわ」

 と、弘子が言ったが、

「まったく同じ言葉をあなたにお返しするわ」

 と、さくらは自分が言いたい言葉を相手が言ってくれたことで、まるで、お互いの気持ちが通じ合えたかのようで嬉しかった。

 その思いがあることで、さらに、身体に電流が走るほどの快感の波が押し寄せてくるのだった。

 二人はその日から、何度も身体を重ねた。さくらが、ソープに入店し、早番勤務だったので、午後三時くらいまでの勤務でよかったので、それ以降の時間は空いていた。仕事を夕方までする弘子がくるのを、夕飯を作りながら待つというのが、嬉しかった。まるで亭主は帰ってくるのを待っているという、新婚さんのようではないか。

 弘子との間で、

「愛の巣」

 が形成される中で、さくらは、高杉のことが気になっていて、弘子に話したことがあった。

「お客さんに、飽食状態の人がいるのよ」

 というと、まさかそれが高すぎだとは知らない弘子は、

「そうなんだ、でも、今のあなたなら、その人を助けてあげられる気がするんだけどな」

 というではないか。

「どういうこと?」

「いや、あなたにしかできないかも?」

 と言われて、その時は、その理由が分かりかねていた。

 その頃になると、法案として通っていて、そのためのシステム作りを急ピッチで進めていた政府だったが、ここにきてシステム開発上の遅れを、システムのことを何も知らない、あの無能ソーリが、

「もっと早く、開発をせんか」

 と言って、例の恫喝で締め付けてしまったことで、文科大臣と開発を請け負っている会社側で、考え方にずれが生まれ、そのうちに意志の疎通がうまくいかなくなった。

 そのせいもあってか、せっかくそれまで完璧に近い形のセキュリティだったシステムのセキュリティが次第に脆弱になっていった。それを知ってか知らずか、実際の開発メンバーでもそのことに気づいていなかった。

 しかし、そんな様子は外部の人間が見ればよく分かることで、あるサイバーテロ組織がそれに目を付け、攻撃をしてきた。

 サイバーテロ組織というのは、基本的にはサイバー詐欺を中心に、資金を集める団体だということは、国家公安の方でも分かってはいたのだが、最終的な目的は分かっていなかった。

 本当の最終的な目的は、資金を集めて、それを元手に国内に混乱を乗じさせて、国家転覆を狙い、そこで自分たちが救世主として現れることで、国家制服を狙うというものだった。

 まるで小説のようなベタではあったが、彼らからすれば、

「こんな日本なんて、混乱さえ起こさせれば、後はどうにでもなるさ。もちろん、そのための資金調達は必要だが」

 という腹積もりだった。

 つまりは、彼らからすれば、

「日本なんて、利権しか考えていない政府高官や、一流企業のトップばかりなので、カネさえあれば、征服するなんてこと、簡単なことだ」

 と考えていたようだ。

 しかも、彼らにとってサイバーの技術、さらに詐欺のテクニックに関しては、世界でも通用するレベルであったことは間違いない。

 日本という国はいつも海外に依存しているので、

「最後には、アメリカが助けてくれる」

 などという、いかにもお花畑のような思想を、普通なら信じられないようなことだが、持っていたのだ。

 ただ、今回は何がどうなったのか、ハッキリとは分からないが、そこかで小さな穴がどこかにできていたようで、その穴をたまたま、公安の人が見つけ、それを上官に通報した。

 そして、慌てた公安は、組織に自分たちがその目論見に気づいたということが分からないように秘密裏に、彼らへの防御を作り上げた。

 やつらもまさか自分たちの計画が露呈しているなどと思ってもいないだろうから、油断していたのだろう。形勢は逆転して、やつらは完全に騙される結果になった。その時にはすでに遅く、体勢は万全になっていた。

 しばらく組織が動けない状態にしておいて、研究員たちは国家に、

「今回のセックス同意書のシステムですが、今は正体不明の組織に狙われているのが分かりましたので、完全な防御ができるまで、開発をストップしたいのですが」

 と、会議で進言した。

 本当は防御は完璧だったが、それを言わなかったのは、研究を続ければ続けるほど、

「この法律は穴だらけだ」

 ということが分かったからだ、

 せめて、運用チームに、今一度、再考を促す意味で、そのようなウソをついたのだが、そのおかげで、法案は可決したが、施行まで、元々は二年と言っていたが、国民に対しては、

「今のところ、無期限延期としかいいようがありません」

 として、最初から考え直すということを宣言するしかなかったのだ。

 その間に代替え案が出てくることを願ったが、なかなか出てくるものではなかった。このまま廃案になるかどうか、難しいところであったが、そもそも賛否両論のあった法案なので、時間が経てば経つほど、反対派が増えてくるのは分かっていた。

 法律は延期になってしまったが。根本的な解決になっていない。代替えがなければ、並行してこの案がシステムの感性を待つことになり、なし崩しで遅れただけの施行になるだろう。

 精神的な自慰行為というものが、可能になったとすれば、それを提唱することで、犯罪に走りそうな人間を、この方法で、何とかできるかも知れない。

 もっとも、これができるようになったからと言っても、最終的な解決になるわけでもない。そのことを一番分かっているのは、きっと思春期を超えた男女だろう。

 いくつまで性欲を保ち続けることができるかは、人それぞれなのだろうが、世の中にはいろいろな性癖を持った人がいろいろな立場で暮らしている。現状に満足できている人がどれだけいるか、できている人でも、かなりの葛藤から、無数の妥協を経て、今に至っていることだろう。

 人間性が変わった人もいるかも知れない。しかし、性癖のようなものを変えられるわけもなく、どうなるのかは、その人の運命によるところが大きい。

「高杉さんも、妄想の中でオナニーができるくらいになれば、ひょっとすると、今の飽食状態という悩みも解決するかもね?」

 とさくらは言ったが、高杉自身は、

「そんなことはないと思うな。何しろこの飽食は、生まれてから今までの間に培われてきたものではないかって思うからね」

 と、考えていた。

「他人であれば、何だって言える」

 と高杉は思っていたが、その感覚をさくらには感じたくななった。

 ただ、さくらは弘子と知り合って、愛し合うようになってから、それまでの殻をぶち破ったような気がしていた。

 それでも、完全に敗れたわけではない。今の苦悩から少しでも気持ちを解消できるようになるためにと、弘子を利用し、さらには、高杉をも利用していると思っていた。

 しかし、それは間違いであり、確かに利用しているのかも知れないが、それは、

「皆お互い様」

 ということであり、気付かない間に、高杉も、決して消えることはないが、今の悩みが悩みではないと思えるくらいにまでに至ることができるのかも知れない。

「セックスをするということは、自分の中で、精神的にどこまでできるかということを見つけるための儀式なのかも知れない」

 と、さくらは考えるようになっていた……。


                (  完  )

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精神的な自慰行為 森本 晃次 @kakku

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