心を磨け! ー女性読者様は自己責任でお読み下さいー

福山典雅

心を磨け!


 僕はね、少し怒っている。


 何がって? そんな事は決まっている。


 最近巷でバズっているアプリ「人生近道クーポン券」についてだ。使い方は簡単でアプリに「目的」を書き込みタップするだけ。それで簡単に人生の近道が現実へと変わるらしい。


 嫌な話だ。


 僕はこう思う。いいかい、人生で近道なんか考えちゃいけない、決して安易に楽な道を選んでもいけないんだ。僕はどんなに苦しくても、人生の苦労を乗り超える事が大事だと思う。


 僕はね、苦労して積み重ねた経験というものは、何があろうと、どんな局面であろうと、自分を裏切らない自信になると思っているんだ。


「苦労ばかりで人生に傷ついて削れていっても、それは心を輝かせる為に研磨粒子で磨いているって思うべきなんだ。何かを磨くって事は傷をつけ削る事だからね」


 僕はそう思うんだ。




 今日、車を走らせながらそんな事を考えていた。そして駐車場に辿り着いた僕は、仕事道具を携えて目的地を目指す。


 もうすっかり陽も落ちて真っ暗だ。というか深夜過ぎだ。ぼくはこんな時間に仕事をする。大変だし寝不足になるけど、こういう苦労を一切嫌だなんて考えない。


 僕はね、「人生近道クーポン券」の使い方によっては、楽をする事が絶対の悪だとは考えないよ。例えば病気が早く治る様に使うとか、役所の手続きや裁判の短縮に使う、さらには落とし物探しや、迷子が泣いていてもそうだ。


 誰かの為になる、困っている人を救う。そういう使い方なら僕は別に問題ないと思うし、むしろ積極的に使うべきだと思っている。


 でも、楽に金持ちになりたいとか、楽にモテたいとか、又は人間関係で楽をしたいとか、仕事で楽をしたいとか、そんな目的で使ってはいけないんだ。


 ジョン・レノンが言っていた。「あれこれ忙しくしているうちに過ぎていくもの。それが人生なんだ」ってね。


 だから無闇に楽をして近道せずに、苦労しながら忙しくしている方が、きっと僕は幸せになれると思うんだ。


 そういう人生って素敵だと思わない?


 さて、今日はマンションの8階が仕事場だ。少し高くて不便な場所だけど、僕は戸惑わずに作業にかかる。事前に綿密に下調べをしているし、今日の工程が迅速に進む様に手間も暇もキチンとかけている。用意周到って言葉は大好きだ。


 僕は苦労した先には楽ではなくて、得難い満足が待っていると思うんだ。


 8階のマンションでの作業は、危険だし怖かったけど、その代わりに僕は、得難い充実感と満足感を手に入れた。


 素早く仕事を終えた僕は、早足に駐車場に戻ろうとした。


 その時だった。


「君、ちょっといいかな?」


 突然、眩しい懐中電灯の光を顔に向けられ、強面のお巡りさんに声をかけられた。


 僕は激しく動揺し、焦りと恐怖が全身を支配した。







 実は僕は変態だ。






 今日はマンションの8階に住む女子大生のおパンティを盗みに来ていた。


 服装は全身黒ずくめで、背中に背負ったリュックには先程盗んだおパンティを丁重かつ丁寧に真空ラップしている。


 とってもまずい!


 お巡りさんは2人組で、訝し気に僕を見ている。


「あっ、ち、ちょっとすいません……」


 僕はお変態だけど、ビビりだ。


 全身にぶわっと汗をびっしょりかき、心臓がばくばくする。それでも僕は素早くポケットからスマホを取り出すと、とあるアプリを起動させた。


「君、スマホはいいからちょっと話を聞かせてくれるかな?」


「あっ、はい、す、すいません、仕事のメールなんでちょっと……」


 焦りと恐怖で指が震えつつ、僕は素早くフリックして「お巡りさんから逃げる」と打ち込み、この「人生近道クーポン券」アプリの「使用しますか? YES NO」の「YES」をタップした。


「おい、君、いいから!」


 お巡りさんの声がきつくなった瞬間、僕の目の前は一瞬で真っ暗になった。







 僕は気がつけばアマゾンのジャングルにいた。


 なんで分かったかと言うと、スマホで検索したからだ。


 ここはアマゾンの裸族「イゾラド」族の村だった。


 お巡りさんから逃げるのに国外逃亡とは、まあアプリのする事だから仕方がない。僕はどんな苦労をも受け入れる男だ。おパンティさえあればいい。


 ただし、ここは裸族の村!


「みんなおパンティを履いてないじゃないかぁぁぁぁああああああ!」


 腰布だけでノーパンな女の子達を見て、僕の魂が絶叫した。







 だが、こんなオチで終るなんて思わない事だ。


 僕は何度も言うが、苦労を己の糧として乗り超える男だ。


 早速現地の女の子達に翻訳アプリで「おパンティ」の素晴らしさを伝え始めた。アマゾンでAmazonのショッピングは辛うじて出来そうだ。


 必ず新しい文化を育てて見せる。


 いいかい、苦労した先には楽ではなくて、得難い満足が待っているんだ。


「僕はアマゾンであろうがどこであろうが、おパンティを必ず盗む(キリッ!)。それがお変態だからだ!」


                               おしまい













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