第43話 玉響(たまゆら)の光


「オキ!」


 結良たちは大きな木の根元に座り込んで、草むらから出て来た子猫を囲んだ。


「おーい! 見つけたのか?」


 少し遅れて正斗もやって来る。

 四人が見つめる中、ちょこんと座っていた子猫が顔を上げた。

 首輪の鈴がチリンと鳴る。


『みな、世話をかけたな……ありがとう』


 子猫は子供たちの姿を目に焼き付けるように、ゆっくりと視線を動かしてゆく。

 最後にもう一度、真ん中にいた結良を見つめてから、子供たちに背を向けて目の前の古墳を見上げた。


 次の瞬間、子猫の体から光があふれた。

 徐々に輝きを増しながら、金色の光がゆっくりと空へ昇ってゆく。


 結良は呆然と光を見続けたが、もしかしたら、ほんの一瞬の出来事だったかも知れない。

 光が消えると、木の根元に白い子猫が横たわっていた。


「オキ!」


 結良は手を伸ばし、子猫をそっと抱き上げた。

 ぐったりした子猫の体は、まだあたたかい。


(逝ってしまったんだ……)


 涙がこぼれた。

 子猫の背中にそっと触れながら顔を上げると、隣にいた朱里が顔を歪めながら結良の肩を抱いた。


「悲しいけど、これで良かったんだよ」

「うん……うん」


 涙を流しながら何度もうなずく結良の背を、勇太が優しく撫でてくれた。


「あれ? ねぇ、この猫生きてるよ!」


 朱里の声で、結良は我に返った。

 微かだが、子猫が呼吸している。


「ほ……ほんとだ。生きてる!」


 結良の腕の中で子猫はぶるっと身を震わせると、ゆっくりと目を開けた。

 たくさんの人間に囲まれていることに驚いたのだろう。小さくミャーと鳴くと、結良の腕から逃げようともがき出す。

 その様子は、死にそうなほど弱っていたことがウソのように元気だった。


「よかった。オキ……これからも一緒にいようね」


「これはきっと、オキの置き土産だな! あっ、今のはダジャレじゃないぞ」


 正斗の言葉に、結良たちは顔を見合わせて笑う。

 穏やかに晴れ渡った空の下を、優しい風が吹き抜けていった。



               おわり

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カミモリ! 滝野れお @reo-takino

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