褪(あ)せる黒

羽川明

褪(あ)せる黒

黒は「結末」だと思っていた。

不純物によってけがされ、堕ちていった果てと。


しかし、今日私は病気のカラスを見た。

その黒い羽毛は一部がしろみ、黄ばんでいた。


色褪いろあせた黒を見たのは、それが初めてだ。


衝撃だった。


それまで、黒は「結末」で、「果て」で、「底」なのだと思っていた。

が、そうではなかった。


黒色こくしょくさえ色褪いろあせるならば、失墜に果てなど、終わりなどないのか。


色とは際限なくせり、果てしなく堕ちていくのか。

まさしく、青天井の対極なのか。


空は青だが、私は地面を征服するただ一色を知らない。


色には「底」がないのだから、青天井のようになんらかの一色を添えて表すこと自体愚かなのかもしれない。


だとすると地面という「底」で生きる我々はなんと幸福なのだろう。

社会的地位さえ「底辺」という下限がある。


果てしなく堕ち、逃れられずにせる運命にある色こそ、真の地獄なのかも知れない。


輝く色、目を奪う色、脳裏のうりに焼き付く色。

そのすべてはある種の「叫び」かもしれない。


せる、堕ちる、損なわれて失われる絶対の未来から脱することのできない色たちの、 「」という切望せつぼうかもしれない。


"セツボウ"がにごり、"ゼツボウ"となるその事実のなんと皮肉なこと。


せる黒が、晴れて薄れていく闇であり、残るのがしろんだ光であることを私はする。


切望が濁り絶望となって、絶望がせて切望に戻るその流転るてんに、終わりなどないのかもしれない。


それでも、あのわずらったカラスのしろんで黄ばんだ羽の色も、残されたせていく黒も、私は忘れないだろう。



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