D湖のUMA
小学生の頃、地元の町にあるD湖にUMAがいる、という噂が立った。
D湖で魚と言うには大きすぎる影を見た。それは3メートルから4メートル近くあった。恐竜のような姿をしていた、いや河童のような姿をしていた。コブのような物が湖の上に出ているのを目撃した。それは河童の頭だった…。
噂故に情報は錯綜していたが、概ね
“恐竜型で湖面から出るコブがある”
か
“河童型で頭を湖面から出す”
という二点に絞られ、湖面に何かが出ている、水中に影が見えるという目撃情報が多かった。
当時はそこまで詳しくは知らなかったが、D湖は湖といっても小さな人造湖であり、生息している魚もせいぜいヘラブナ程度であった。3メートル以上の生物が生息している可能性はかなり低いだろう。
…そういった事を知らない小学生当時でも、私は“皆が騒いでいるソレは、UMAではないのではないか”と思っていた。
その噂が立つ以前、私は祖父とD湖で釣りをする機会があった。
日が沈みかけている時間帯、祖父と並んで釣り糸を垂らしていると、前方の湖面に何か丸い物が見えた。
ソレは湖面に、鼻から上を出している人の顔だった。
30メートル以上は離れているのに、妙にその顔、とくに目がやたらとハッキリと見えた事を覚えている。
髪の長い、女の顔に見えた。
私の事をじっと見つめていた。
「見るな」
祖父が小さな声で、しかし強い口調で言った。
「アレは生きている人間じゃない」
祖父はそう言いながら自分の竿を片付け始めた。
「今日はもう帰ろう。世の中にはたまにああいうモノがいるんだが、関わらないようにしろ。危ないからな」
そういう話を聞きながら私も自分の釣り具を片付け、祖父と一緒に帰路についた。
そんな事があったので、湖面に浮かぶコブや河童の頭というのは、UMAというか、生き物の類では無いのではないかと当時から思っていた。
怪異/異形日記 @kimif
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