第5話 2人目のきょうりょくしゃ
「ネージュ! これからお食事ですけど、貴方と同じテーブルを囲んでもいいかしら?」
「ボクはもちろんいいですよ! エクレール、いいですか?」
「…………べつにいいぜ」
フラムとエクレールとボクでいっしょにごはんを食べることになりました。
しょくどうでのごはんは自分で好きなものを取ってたべるそうです。おにく、パン、パスタ、おさかな……いろいろな料理がならんでいました。
フラムは
とてもおいしいのでえがおで食べていると、エクレールが話しはじめました。
「…………おれはエクレール・オニクス。……まだジコショウカイしてないだろ、おれたち」
「………………………………そういえばそうでしたわね。わたくしはフラム・エグマリーヌ。もちろんご存知ですわよね、悪名高き闇属性の魔術の名家であるオニクス家のご子息ならば。……オニクス家のお噂はかねがね聞かされていますわよ」
「もちろんだ、水のまじゅつの名家のフラム嬢? なんでもまじゅつをぼうそうさせて庭のふんすいをぶちこわしたとか。いやぁうらやましいな、やみのまじゅつはせんさいだからざつにあつかってもいりょくはそこまで出ないんだ。そう考えると水のまじゅつはフラム嬢にピッタリだな」
どうやらエクレールとフラムはまだしょたいめんなのにもう仲がわるいようです。ですがボクはかしこいので2人の仲がわるいりゆうを知っています。
それは、オニクス家とエグマリーヌ家がもともとけんあくだからです。大人のじじょうはよく分かりませんがとにかく仲がわるくてしょっちゅうおたがいに弱みをさぐったりいろいろしています。そもそもオニクス家とその分家・派閥がけっこうきらわれてたりします。ボクはかしこいのでお父様とお母様がボクにあまりオニクス家とは仲よくしてほしくないのをリカイしています。でもボクはわるい子なのでムシします。ボクはかしこいけどそれはそれとしてわるい子なので。
ただお家のじじょうはおいておいて、ボクをはさんでケンカをされるとおいしいりょうりもおいしくなくなるものです。
「そんなにケンカがしたいならボクより君たちの
「……あっいや、そういうわけじゃないんだ、わるいネージュ。おれはただこいつがいけ好かなだけであって…………お前をはさんだつもりはないんだ」
「……あっ、えっ、えっと……そうじゃないのですわ。ごめんなさい、ネージュ。わたくしはただこの厨二髪型の男が気に入らないだけですのよ。断じて貴方を置いてけぼりにしようとしたのではないのですわ。条件反射でこうなっているだけですのよ」
「……つまりこいつがわるいんだ」
「……つまりこいつが悪いだけですのよ」
…………この2人、けっこう気は合いそうだと思いました。これからケンカするほどなかがいい、という関係になるかのうせいもあります。それはそれとしてこれ以上ギスギスなるのはいやなので話題をかえることにしました。
「そういえば、エクレール。ボク、しょくじのあとに話をすると言いましたが今してもいいですか?」
「ん? べつにいいぞ……
フラムはもう知っている話なのでだいじょうぶです! と伝えると
「………………そーかよ」
と少しすねたように返されました。
「じつは……あのてんにゅうせい、ボクの兄なのです」
「…………は?」
「……………………………………………………ん?」
「信じられないかもしれませんがほんとうなのです。まじゅつの才能もむらさきの目もないけれど、やさしくてじまんの兄さんでした」
「え、で、でも、アメティスト家には天才のムスコ1人しかいないって…………」
「……まじゅつの才能も、むらさきの目もない……ましてやはいいろの目のムスコだなんて、お母様にとってもお父様にとっても言いたくないことだったのでしょう。ずっとかくされてたんです、兄さんのそんざいは」
「待って待って待って転入生ってなんですの???? わたくしそれ初耳なのですが???」
そういえば、てんにゅうせいの話題は
「
「……魔術の才能も、貴族向きのスキルもない上灰色の目という条件で、この学園に転入出来ると思えませんわ。……魔術の才能がなかったり、
「うん、それはわかってる。でも結果としてあの人はここにいるんだ」
どうして転入できたのか、そんなことはボクにも分からない。ボクたちの立場なら、どんなにかしこくても分からないでしょう。
「…………お前の兄があのてんにゅうせいなのは分かった。でもどうしてそれをおれに?」
「…………エクレールには、きょうりょくしゃになってほしいのです」
「……………………きょうりょくしゃ?」
エクレールに、兄さんが「テンセイ」というものにとりつかれて「テンセイシャ」になっていることについてのせつめいをしました。この考えが正しいのかはおそらく兄さんいがいには分かりませんが、だいたい合ってると思います。
「……………………なるほど。げんじつみのない話だが、おれは信じるぞ。……だってお前はおれの友だち1号なんだからな! …………そのかわりになんだが、たのみがあるんだ」
信じてもらえてよかったです! 友だち1号って、フラムにも似たようなことを言われました。
「友だち1号ってわたくしの二番煎じですわよ」
「あ? ……そんなこと知るかよ!!!! ネージュはおれの友だち1号だから!」
「わたくしの友だち第1号ですわよ!」
またケンカを始めてしまいました。ボクをケンカのダシにしないでほしいものです。
「おねがいってなんですか?」
「その、そのだな……あの…………だから…………あの…………………………お、お、おれの…………いい! またこんど言うから! まだいい!!」
エクレールはかおをまっかにしてそっぽをむいてしまいました。よく分かりませんがまたこんど言うらしいです。
「……というわけで、これからこの3人でそれぞれの問題に対してお互いに協力し合う、という方向性でいいのかしら? オニクス坊が赤面している間にお茶菓子とフルーツを持ってきたのでこちらでも食べながら今後の方針について話したいのだけれど」
「そんな感じでいいんじゃないですかね! もってきてくれてありがとうございます!」
「なっ、赤面なんてしてねーよ!」
「してましたよ! ほら、おかし食べましょう!」
かおがまっかになっていたのはジジツなのです。ボクはエクレールの口にジェラートをつっこみました。ジェラートはつめたくてあまくておいしいデザートです。ボクは好きですがエクレールはどうなのでしょうか。
「んぐ!?」
「おいしいですか?」
「………………悪くない」
どうやらエクレールは気に入ったようでパクパクとすごいスピードでジェラートを口にはこんでいます。
「流石各地から人が集まる場所ね、いろいろな種類のデザートがありますわ。…………ジェラートなんて食べたのは久しぶり」
「このほかにはどんなものがありましたか?」
「ケーキとか
「あら、砂糖菓子ならわたくしも取ってきましたわよ。ネージュ、要りますか?」
フラムは
「おねがいします!」
「おれにもひとつくれ」
「あなたは御自分で取りに行ってくださいませ」
そう言いながらもちゃんとわたすフラムはやっぱりやさしい人です。
フラムからうけとった
「ネージュに渡したのは琥珀糖という砂糖菓子で、作る過程で紅茶を混ぜたものだとありましたわ」
「なるほど! だからあまずっぱくてこうちゃの風味をかんじるんですね!」
「おれのはただあまいかんじだな……」
エクレールはあますぎてあまり気に入らなかったようでしぶいかおをしていたのでレモン味のジェラートを取ってきてわたすと
「………………ありがとう。……まあ、くちなおしにはなった」
と言ってくれました。
そんなふうに3人でふわふわとしたティータイムをたのしんでいると、とつぜんしょくどうのトビラがバン! と大きな音をたててひらきました。
トビラをひらいた男の人は、とてもけわしいふんいきをまとっていました。かざりのないまっくろなローブにてきとうにくくったであろうボサボサの長いくろかみをしていて、目の下にはくまができています。
その男の人は、しょくどう全体をみわたしたあと、せんせいと思わしきおじいさんの所へカツカツと足をすすめていきます。
そしてそのおじいさんになにかを耳打ちすると、おじいさんはあおざめてこうさけびました。
「生徒全員寮に戻りなさい! 教師命令です、監督生及び最上級生は下級生を寮へ誘導し、全員が寮へ戻ったことを確認してから寮へ戻りなさい!」
なにが、あったのでしょうか。
ボクはかしこいのでしっています〜兄さんは「テンセイシャ」〜 手毬 猫 @snowstar
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