もやしの秘密を、あなたたちはまだ知らない。

湾多珠巳

You don't know anything about the secret of bean sprouts.



 おっと、そろそろ見えてきたようですねえ。ええ、あの右手の赤い屋根の一軒家。あれこそが、我らが時の人、栃刳位とちくるい栗花りかちゃんのご生家であらせられます。ええ、まだ暮らしてますよ。ご家族も皆さんお元気で。まー、本人が望めば、お城みたいな家にすることだって、今はできるはずなんですけどねえ。やっぱりこじんまりしてる方がいいんだとか。基本、小市民ですから。もっとも、この数年間はなかなか家でゆっくりするどころじゃないんですけど。

 あんまりまじまじと眺めないでくださいねー。ここ通るの、届けてないんですよー。結構きわどい形のバスツアーですんで、あくまでたまたま観光バスが素通りしてったって設定でお願いしますよー。

 え? はい、生まれた当初はいたって平凡な女の子だったそうですねー。ていうか、小中高の学生時代も、その後だって、見かけは地味〜なただのおねーさんでしたとも。あ、左前方の丘の上、あれが栗花ちゃんの過ごした中学校です。ええ所でしょう? 普通の町立中学ですけど、雰囲気だけは恵まれてて。

 ……あ、はあ、そうです。私もそこの出身で。いやいや、そんな格別親しくしていた間柄なんかじゃ。ええまあ、そりゃ同学年で女子同士でしたから、栗花ちゃんとも面識はありましたけどね。まあ、モブの一人だったってことでいいじゃないですか。

 で、だいたい中学の頃ですね、最初の兆候が現れたのは。はい、何だか突然、まじーな顔になって、「いつか、何かが空からこの町に降りてくる」って、繰り返しつぶやいたりし始めたんですよ。どうも、そういうビジョンが本当に浮かんでくるらしくて。ええ、夢でもずっとそういうの見続けている、とかなんとか。

 予知能力?……んー、そのへんは、このツアーでは一切触れませんってことでお願いします。ぶっちゃけ、私もわかんないですよ。ほら、かまってちゃん崩れが、予言みたいなことやたらと口走ったりするのってあるじゃないですか。でも、栗花ちゃんはそういう性格とは正反対でしたしね。できるものなら一人静かに過ごしたい、でも言わないではいられない――そんな、生真面目さとエキセントリックさが入り混じった、不思議な魅力のあるキャラでしたねー。

 で、そんなこと言われたら、やっぱりみんな騒ぐじゃないですか。さすがに中学生だとSNSなんか表向き禁止されてますから、あくまで内輪だけですけれど、盛り上がりますよね。当然、色々ありましたね。ええ、そこはもう、色々あった、としか。まあ、集団でイジメとかにはならなかったんで、そこはよかったなと……

 え、妙な噂? アンチグループが一人ずつ姿を消した? 栗花ちゃんシンパが密かに手を回して? なんですか、それ。

 昔の暴露話? でも匿名でしょ、それって。投稿小説? ドキュメンタリーとして? はあ、そんなのが出てるんですか。ああいや、そりゃファンタジックな話に心酔してる人もいたし、そういう人が、栗花ちゃんを嘘つき呼ばわりする連中をぎったんぎったんにした、なんて話も、まあ噂では……は、私? いやいやいやいや。私はモブですよ? 何もそんな、表に出るようなことは……あ、そろそろ次の目的地が近づいてきましたんで、よろしいでしょうかあ?

 は〜い、正面に見えてまいりました建物、こちらが栗花ちゃんの出身高校ですねー。まあ普通の道立高校なんですけれど。偏差値は中の下ってとこですね。いや、仕方ないじゃないですか。この町の子はみんなここに入ったんです。北海道で他の学区に通うって大変なんですから。

 うん、高校生活はそれなりに楽しく過ごせていたようですね。もともと控えめで優しくて、予言の件を除けば悪意を持たれるタイプじゃなかったわけだし、何よりも主な敵はお守り役が中学時代に沈めて……失礼、とにかく、オカルト同好会という居場所を見つけたことで、だいぶん雰囲気も明るくなったようで。ええ、いわゆるオカ研です。前からあった同好会だったのですけれど、何しろ栗花ちゃんは入学前から有名人だったし、彼女の代で一気ににぎやかになった感じでしたねー。

 その後のビジョンの変化ですか? そうですね、だんだん具体的になっていったというのはあります。

「きっと、降りてくるまで十年待たなくていいと思う」とか、「着地点は幌原ほろはら山の裾野で間違いない」とか、やたら確信を深めていってるようでしたし。

「もやし」って言葉が出てくるのも、この頃からでしょうか。「なんだか、もやしをすごく大事にしなきゃならないような気がする」。そんなセリフが飛び出すようになったんです。

 当然、みんな面食らいましたけどね。だって、UFOとか宇宙人が降りてくるって呟くだけなら、それなりに夢のある話だったのに、いきなり「もやし」ですからね。なんじゃそら、ですよ。さすがに白けた人たちもいました。やっぱりこの子、ただの電波なんじゃないの、みたいな。けど、そこはまあ、その時点で議論しても仕方ないことだったし、オカ研の面々も、半分はスルー、半分は判断保留ってことで、そのまんま卒業まで押し切ったようです。

 結果的にそれでよかったんです。だって、その時点でみんな本気になってもやしに注目してたら、こんなことにはならなかったでしょ? 下手すると星間戦争とか、でなくても地球の内側で利権狙いの生臭い争いとか、可能性がありましたし。周囲の仲間ももやしだけは無視してくれたおかげで……

 は、陰謀? え、何の話っスか? そんな穏やかな話じゃなかったって誰がそんなこと……新手のアンチ栗花ちゃん派? いやいや、そんなのいなかっ……へ、もみけし工作? もやし発言を? つまり何スか、もやしってキーワードを抑え込むために、急に栗花ちゃんネグレクトが発生したと? なんでそんな未来を先取りした話になるんです。なんか、すべてを見通して栗花ちゃんまで操ってた、闇の組織みたいな話に聞こえるんですけど。ネグレクトなんてあったかなあ〜? わ、私はもっと平和な空気を憶えてますけどね〜、もやしの件だって、むしろ学校中が楽しそうに……え、そんなんじゃなく? ずっと凄絶な? ディスりまくってたって、栗花ちゃんを? いやいやいや、ちょっとその件、横に置いといてもらっていいですか? は、その首謀者が私!? やめてくださいよ、なんで私がそんなに急に表に出るんですか。意味不明ですよ。

 ほら、今ってただの観光ツアーなんですから。あまりフェイク情報で荒れるのも、ね? ね? あ、ちょうど目的地に着きましたよー。栗花ちゃんが務めていたスーパー「ひれはれ」です。ここも今は大きくなって、レストランができて、いろいろおみやげも売ってますからねー。見ていってくださいねー。はい、じゃあ食事込みでしばらくここに停車しま〜す。



 みなさん、お食事はいかがでしたかあ〜? おみやげ店の中、もやしづくしでしたでしょ〜? こんなところ、世界でもここだけだと思います。そのうちもやしパークとかできそうですけどね。私としては、悪乗りもほどほどに、と言いたいんですが。

 さて、スーパー「ひれはれ」も後にしたことだし、遠慮なく話の続きといきましょうか 笑。あ、さっきの高校時代の件はNGにしておきますよ。それより、こっちの方がみなさん興味がおありでしょう? ええそう、栗花ちゃんがあのスーパーでどんな扱いを受けていたかっていう。

 そりゃ今となっては「ひれはれ」だって栗花さまさまですからね。ほとんど神様みたいに祀り上げてますけど、そんなのもちろん〝あの日〟から充分日数が経ってからのことですしね。

 まあ、このへんは週刊誌なんかでも書いてることなんで、別に秘密でもないんで。ええ、そうです、高校卒業してから栗花ちゃんはあのスーパーに就職したんですが、さすがに年配者ばっかりの店員の間じゃ、ちょっと浮いた存在でした。もう学生じゃないんだから、無防備に「予言」を口走ったりはしなくなってましたけれど、みんな昔からの噂は知ってるし。あんな子入れて大丈夫? みたいなこと言う店員もいましたし。

 でも仕事はしないと生きていけませんからねー。ご本人がどんな気持ちでいたのかはともかく、きちんと仕事はこなしてたんです。依然として社交的なタイプじゃなかったけれど、新人がやるべき、だいたいの作業はそつなくこなしてました。

 というわけで、実を言うと、一部で言われてるみたいに、店内で新人イジメとかはなかった――え? 不審な退職者? 何のお話でしょう? 栗花ちゃんに辛く当たってたおばちゃん達? はあ、続けて四人、ね。そんなことがあったんですかねえ。そりゃ、それなりにパートの出入りはありましたから、短期で辞める人だっていくらでも――はあ? また私ですか? 何もしてませんって。なんでそこで私の名前が。え? はい、確かに私もあの店で一時期社員やってましたけど――いやいや、おかしいでしょう? 高校時代に栗花ちゃんディスった首謀者が私で、卒業後に影のまもり手みたいなことやったのも私なんて筋が――全部つじつまは合う? あーはいはい、じゃあその陰謀論、あとでゆっくり聞かせてもらいますから、とりあえず先行っていいですか? そろそろ幌原山に着くんで。

 えーと、ここが二年半前に例のUFOが降りてきた場所です。それなりに立派になって、これから色々と整備されていくんでしょうけど、あの日はもちろん草ぼうぼうのただの原っぱでしたよ。

 ご存知の方も多数いらっしゃるでしょうが、一連の流れ、おさらいしておきましょうね。いかに、この北海道の僻地で、人類史上初のファーストコンタクトがなされたか、ですね。

 有り体に言えば、その日は突然やって来ました。一応の前触れとして、話はまずUFO降着の三日前からですね。栗花ちゃんが突然「もやし!」って叫びだして、なんだか人目もはばからずに異常な行動を取り出したんです。

 今となってはみんな納得してることなんですけど、実はもやしは、あの方々の主要な食材だったのですね。そう、あの、かつて地球を出て、植民の末に再び地球へ戻ってこられた、私達のいとこ筋に当たるヒト科の、あの方々です。地球に着いた時点で結構食糧事情がギリギリな状態だったんで、大至急大量のもやしを送り届けてやらないといけなかった。

 なんでそんなことを栗花ちゃんがずっと前から察知していたのかは、繰り返しますけれどここでは触れません。はっきり言えることは、栗花ちゃんは、そんな宇宙人さんたちの窮状をビジョンで感じ取って大いに心を痛め、地球人の自分ができる、最大限のことをやったってことです。

 つまり、もやしの大量発注ですね。ええそーです。その日、たまたま担当してた野菜の発注作業で、あの子は独断でもやしだけ桁二つ多い数を注文しやがったんです。

 小さな町の小さなスーパーですからね。もー大騒ぎですよ。

 というか、なぜだかその時の発注って、マネージャーも店長も完全に見過ごしてたんですよねー。その翌日に現物が届いてから、初めて気がついたってパターンで。日頃の「ひれはれ」ならありえないミスなんですけどねー。はははは。

 え、なんですか、その目は? 共謀者? 発注画面に手の込んだ細工をした者? さあ、知りませんよ。ほらほら、つまんない陰謀論なんかほっといて。ここからがクライマックスなんですからね。

 当然、店長以下、パニックになって栗花ちゃんを問い詰めました。予備の冷蔵庫にも到底収まらないぐらいの量でしたし。で、あの子はなんと言ったか。複数の証言が、次のような言葉を伝えてます。

「だって、これからすごくいっぱいもやしが必要になるんです。絶対にいい値で売れます!」

 春先でしたから、冷蔵庫の外でも保管はなんとかなりましたけれど、量が量だし、そんな妄言を真に受けてくれる大人たちじゃありません。その場で栗花ちゃんはクビ、注文したもやしは全部給料で買い取れって話になっちゃったんですねー。

 さらしものみたいに、お店の真ん前にもやし放置して――そうなんですよ、裏の搬入口の隅にでも、カーゴ並べて置いときゃいいものを、嫌がらせみたいに。あげく、買い物に来てた町の人たちまで集まってきて、ちょっと異様な雰囲気になってた中で、でも栗花ちゃんは何だかすごくきりっとした顔のまま、黙々と三万袋のもやしを自力で運び出そうとしてました。三万ですよ、三万。運良く、ちょうどその時に親切な流しのトラックドライバーが通りかかったからよかったものの――

 え? 流しのトラックドライバーです。いや、ほんとに現れたんですって。証言もありますよ。嘘みたいな偶然ですけど――は? 若い女だった? そうなんですか? えーと、性別とか年齢までは、こちらの方では何とも――え? いやいや、私じゃありませんよ。なんで私が。はい? 写真? やめてくださいよ。そんなの、合成に決まってるじゃないですか。なんでそんなに私がすべての黒幕みたいな言い方するんですか。いやだから。噂は噂ですって。もーいーでしょっ、説明が終わらないじゃないですか。

 えっと。後はもう、動画とかテレビ特集とか映画とかでみなさん見てる通りです。その日の夜、正確にはその翌朝午前三時半、栗花ちゃんと、半信半疑の何人かの元オタ研メンバーが見守る中で、あの方々が幌原山のこの場所に降りてきたんですね。いや、それはもう、「未知との遭遇」みたいな場面そのまんまでした。光り輝くUFOに、大地を揺るがす超低周波。ただ、残念なおまけも付いてきました。どうも、政府筋が何らかの情報を掴んでいたらしくて、UFOの着陸からいくらもしないうちに、一斉に自衛隊が展開してしまって、一般人は立入禁止になっちゃったんですね。非常線みたいなの張っちゃって、UFOから何かが出てくる直前に、栗花ちゃん達は距離を取るように求められて、宇宙人とは接触できなかったんです。

 まあそうなりますよね。普通に考えたらね。でも、奇跡が起きたのはここからです。

 ピクトグラムとか手にした係官が現れて、いかにも今から仰々しいコンタクト劇が始まりそうな雰囲気が漂った、その時でした。

 UFOから伸びてきたタラップから転がるように宇宙人が現れて、叫んだんです。「もやしをくれっ」て。

 実話です。一字一句この通りです。どこにも出てない情報ですけれどね。慌てて、手話かなんかを試みようとした係官を、その、リトルグレイよりはもうちょっと地球人に似通ったUFOの乗組員が、怒鳴りつけたんです。

「言葉なら分かる! すまんが、今緊急事態だ! もやしがほしいっ。我々の大事な栄養源だ。ここに百人、上空には同胞が二万人ばかりいる。みんな飢えている。地球の食材で、我々がすぐに摂取できるものはもやししかない。何とかしてもらえないか?」

 なんで地球に着いたばかりの宇宙人が地球語を、それも日本語をスムーズに話せるのか。なんでもやしを知っていて、それが唯一の緊急食だと判断できたのか、そういうことは、そのうち情報開示があるでしょう。とにかく、係官はびっくりです。泡食って上官と協議しようとして、わずかな空白が生まれました。その時、非常線ギリギリでずっと粘ってた栗花ちゃんが叫んだんです。

「もやしならあります!」


 かくて、栗花ちゃんがクビと引き換えに大量発注したもやし三万袋は、地球史を塗り替える大イベントの最重要アイテムとなって、日本政府が責任を持ってで買い取り、星の向こうからの帰還船団乗組員の命を救ったというわけです。栗花ちゃんはこの時のはたらきにより、先日国民栄誉賞を授かり、おそらくは次のノーベル平和賞も確実なんではないかと。

 くどいようですけど、なんで彼女にそんな透視ができたのか、そっちの説明は一切なされてません。説明できないですよね。まあ、そういう予知能力みたいなものは、昔から色々例はあるんだし、それがこういう歴史を動かす? みたいなすごい場面で出てきたってことで――



 え? なんですか、あなたたち。ちょっとそれ、拳銃とかじゃないですよね。どこの国の……いや違うね。あんたたち、まさか。

 はっ、こーゆーこと! んもー、同業なら同業ってさっさと言ってよね。ああ、そりゃ判りますとも。あたしは確かに地球生まれの地球育ち、体はまるっきりここの星のモンだけどね。

 話は聞いてるよ。あたしらみたいなのが、どこの宇宙にも一定数いるって。匂いで分かるもの。コーディネーターの任に就いてる種族、なんてのは。

 うんそう、全部あんたたちの読みどおりってわけよ。いくら元地球人同士だからってさあ、いきなり大移民団が空から降りてきて、ああそうですか、ではこれからよろしく、なんてことになるはずないでしょ。むしろ、星を賭けた戦いになるよ。

 だから、目的地が決まってて、平和的な処理をお望みなら、先遣部隊を送りこまないと。その上で、気の利いた連中なら、あたしらみたいなのに裏工作を一任するのが常識だよね。

 ああ。だから、だいたい見当はつくでしょ? 幸い、ここの星って〝未来予知〟って反則技が、完全にアウトにはなってないのよね。そういうこともあるんだろうな、で通っちゃうっていうか。

 だったら後は、巫女役の現地人を選定して、うまく誘導するだけでしょ。

 そう、日本政府に余計な入れ知恵したのもあたしらだよ。下手に察知されても面倒だし、どうせならちょうどいい金づるになるように、ね。

 でも、「もやし」には参ったね。あの娘、なんであんなこと口走り始めたんだか。食糧事情なんて、深層暗示の項目に入ってなかったはずなのに。地球人のイメージ認知はまだまだ謎が多いね。栗花ちゃんの手綱を緩めたり、締めたり、それはそれは大変な操作だったんだから。

 え?

 最終的にいくらで売りやがったんだ、だって?

 なにさ、藪から棒に。ああ、まああんたたちにはごまかしきれないか。

 結論から言うと、定価二十五円のもやしを、なんと十万円だよ。

 いや、あのお嬢ちゃんは、それほど高値にするつもりはなかったみたいだけどね。あたしが止めたんだ。こういうところ、どうもここらへんに住んでる人間はネジが緩んでていけないよね。死にかけた相手だろうと、対価の話はきちんとつけないと。巡り巡ってどんな厄介事になるかわからないんだから。

 だから、とりあえずそのUFOくれって言ってみた。そしたら、OKだって返事するじゃないか。でも、そんなこと、政府が黙っちゃいない。一民間人がオーバーテクノロジーをまるごと所有するなんて、いくら日本政府でも許容できるはずがない。

 なら、引き換えに金だろ? 間に政府が入って、宇宙人にもやしを仲介するってんなら、相応の金額を見せてくれってことさ。結果、その場の係官と、しまいには画面越しに総理と直接交渉して、もやし一袋十万円で手を打った。税抜価格で。

 それぐらいの価値はあるもんだろう?

 え? それはだから、栗花の財産だよ。あたしは横から口を出してやっただけ。まあ、あの娘はとことんまで無欲だから、クビを取り消させる代わりに、三十億の売上は「ひれはれ」の営業益ってことにしやがったみたいだけどね。一介のスーバーにとっちゃ、空前絶後の収益だろうね。

 なんであたしがそんな手出しをしたのかって?

 ふう、まあ本音を言えば、うまいことちょろまかして、ほとんどこっちが横取りしてもよかったんだけどさ。

 あの娘はね、宇宙戦争を一件まるごと、未然に防いだんだよ。自分は何一つ得しないのに、それどころか、いっとき生活までパーにしたのに、最後まで飢えた宇宙人のことだけを考えて行動したんだ。

 ただのおめでたい話さ。わかってる。でも、こんなやつ、今の宇宙にいるか?

 少々の小金を渡したぐらいじゃ、とてもじゃないけど誉めたりないって思わないか?

 ……まあ、そういうこと。もういいだろ。話は終わったよね?

 え、次の大船団が来てる?

 なんだいそりゃ。早々にこの星は中継貿易星にでもなろうってのか?

 はん、それで? 次の船団とも地球が友好的に折り合えるように? 手を貸せと? それはつまり、ビジネスの話ってわけかい?

 うちと組みたいってことなら、つまり同じ手でうまくやってくれってことだよね?

 あー、まあいいだろ。だけど、仲介料は高いよ。

 あと、人選はそっちでやってちょうだいよ。え? だから。栗花ちゃんみたいなのをまた一からでっちあげなきゃならないんだからさ。

 最初は国選びからだね。アメリカと中国はやめときな。あんなボスづらした国にUFO降ろしちゃダメだ。ほどほど科学水準が高くて、金回りがいいとこな。あと、オカルトネタを国民的に支持してもらえるところ。これが重要。たとえば、そうだねえ……。 



  <了>

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もやしの秘密を、あなたたちはまだ知らない。 湾多珠巳 @wonder_tamami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ