夏休みのなぞなぞミステリー

なぞなぞ


 ミステリー研究会の3人組が、まだ夏休み中だったころ。


 青枝蒼子あおえだ そうこは、叔父の営む喫茶店でアルバイトをしていた。

 そこへ、私服姿の赤井稲穂あかい いなほ菅黄すがき寿々理すずりが遊びに来たのだ。

 開店直後の時間帯。まだ、店内に他の客の姿はない。

 店主の紫苑しおんは渋みのある紳士だ。

 カウンター席に並ぶ赤井と菅黄に、

「でも驚いたよ。高校最後の夏休みまで、うちでバイトしてくれるなんて。デートとか、もっと楽しめば良いのに」

 と、話した。

 青枝もカウンターの中で、ランチメニューの下ごしらえなど手伝いながら、

「どうしてデートしないんでしょう? 推理してみて」

 と、聞いた。赤井がすぐに、

「彼氏がいないから」

 と、答える。

「正解」

「推理要素ないですよ。マジでいないんですか?」

「いないよ」

「こんな可愛い子たちに彼氏がいないなんて、ミステリーだよね」

 などと紫苑が言えば、

「ですよねー」

 と、赤井が笑う。

 真緑まみどり色のメロンソーダをひと口飲み、赤井は、

「もっと推理できるなぞなぞ出してよ」

 と、言った。

「なぞなぞって言っちゃってるし」

「じゃあ、蒼子ちゃんには、どうして彼氏が出来ないんでしょう?」

 と、紫苑が謎を出す。

「えー、それ知りたい!」

「青枝先輩、IQが高過ぎて、同年代の男子じゃついてけないんじゃないですか」

 菅黄の答えに、紫苑は笑って、

「あはは。近い近い」

 と、答えた。

 食パンのみみを切り落としながら青枝は、

「近くないよ」

 と、言っている。

「え、違うんですか?」

「そういうスガはどうなの。彼氏」

「興味ないです。男子と付き合うくらいなら、文鎮ぶんちんと付き合いますよ」

「寿々理ちゃんが付き合うのはすみ君じゃないの?」

 と、聞く赤井に、菅黄は、

「赤井先輩は?」

 と、聞き返した。

「私は今、すきが好きなの」

「へ?」

「そのダジャレ、現代っ子には通じないよ」

「オジサンもわかんなかった」

 と、紫苑も首を傾げている。

「鋤っていう農機具があるんです」

 と、赤井が答えた。

「へー」

「愛車は軽トラ」

「はっ?」

「来週、免許センター行って来る」

「待って下さい。赤井先輩、軽トラ乗るんですか。免許取り立てで軽トラですか? 女子高生ですよね」

 誰でも、始めはこういう反応だ。

「女子高生だけど農家の娘だし。田舎の高校生なんて、こんなもんよ?」

「いや、私だって同じ地域の高校生ですよ。近所の高校生に謝って下さい」

「ごめんなさい」

「もう免許取れて良いよねぇ。私、誕生日が冬だから、講習受け始めるのまだ早いのよ」

「でも去年、バイクの免許取ったもんね。学科は免除で、車の免許もすぐ取れるよ」

「だと良いけど」

「……で、結局。青枝先輩はなんで彼氏できないんですか」

「蒼子ちゃん、すぐ手ぇ出しちゃうんだよ」

 紫苑がさらりと言う。

 そして赤井は納得するように笑った。

「へっ? 手って、どういう手ですか」

 菅黄に聞かれ、青枝は拳を握って見せた。

「高校生なんて、夢膨らませちゃってるだけなのよ」

「仕方ないよ、そういうお年頃だもん」

「えっと、なんの話ですか」

「だから、私の膨らんでないところの話よ」

 と、青枝は菅黄の膨らんでいるところに目を向ける。

 赤井と紫苑にも目を向けられ、菅黄は両腕でガードするように胸を隠した。

「えー……? それで手ぇ出しちゃうんですか」

「思考回路の栄養源に消費しちゃってるとか言いやがるからさ」

 などと、青枝は口が悪い。

「それはゴツンするしかないねぇ」

「うん。そうだ、そんな事より。昨日、気付いたんだけど。あそこの屋根のはりの部分、カウンター側に向かって何か貼られてるでしょ」

 そう言って青枝は、カウンターの中から天井を指差した。

 天井吹き抜けのログハウス風店舗の屋根近く。

 丸太の梁に、小さな紙が貼られている。

「あ、本当だ。目立たない色だけど、小さい写真?」

 見上げながら、赤井が首を傾げた。

「そう。あんな高い所に、どうやって写真を貼り付けたでしょう。推理してみて」

 青枝に言われ、赤井は店内をキョロキョロと見回した。

「えー、階段はないし……外から梯子かなにか持ってきたとか?」

「ぶー。あんな高い所に届く梯子なんて、ここにはありません。余所から借りて来たわけでもありません」

「高い所に写真が貼られるミステリー……」

「私、わかりました。って言うか、知ってました」

 と、菅黄が言う。

「えー、わかんないよー。ヒントは?」

「スガのセリフがヒントだったわよ」

「最初の青枝先輩のセリフにもミスリードがありました」

「えー……?」

 もう一度、店内を見回す赤井に、

「けっこう、気付かれないもんだねぇ」

 と、紫苑はくすくす笑った。

「えっ、なにか仕掛けがあるんですか?」

 赤井は目を輝かせるが、紫苑は手を平つかせ、

「最初から貼ってあったんだよ。蒼子ちゃんが気付いたのが、昨日だったってだけ」

 と、話した。青枝が含み笑いを漏らしながら頷いている。

「なんだぁ、そういう事か……」

「私はこういうお店の雰囲気好きなんで、けっこう眺めたりしてて知ってました」

「それは嬉しいね。このお店を建ててる時に、業者さんに天井付近の様子とか見せてもらったんだよ。その時にペタッとね」

「それで、なんの写真なんですか?」

「蒼子ちゃんの子どもの頃の写真だよ」

「は?」

 赤井と菅黄が声を揃えた。

「可愛い姪っ子が天使のようでね。出来たばかりの僕の店の、幸運の天使になってもらおうと思って」

「……幸運の女神とか言って、初恋の女性の写真を貼るとかなら理解できるけど」

 赤井の言葉に頷きながら、青枝は、

「そんなんだから、叔父さんだって彼女いないんじゃないの」

 と、溜め息をつく。

「でも実際、お店は繁盛してるし。成長した蒼子ちゃんが看板娘になってくれてるし」

「すごいすごい。私も、アオちゃんの写真を枕に入れといたら頭良くなるかな」

「私もお守りに入れときたいです。縁起が良さそう」

「……あんたらの発想もミステリーよ」

 呟いて、青枝は天井を見上げた。


 ミステリー研究会の3人組は、今日も身近な謎を楽しんでいる。

                                  了

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真緑高校ミステリー研究会 天西 照実 @amanishi

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