雨男と七夕
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
雨男と七夕 全1話
男は雨男だった。
旅行やなにかイベントに参加すると大抵その日には雨が降るのだった。
だが、今日の雨男は上機嫌だった。出先でこれから夕食を食べようというときに、ザーザーと雨が降っている。それが嬉しくてたまらない。
「七夕かぁ。このまま夜中までずっと雨が降ればいいべさ。今日ほど自分が雨男だっちゅうことをありがたく思ったことはねえべ」
「ケンさん、なしてだべ?」
「彦星と織姫が年に一度のデートだっていうのに地上から皆して覗き見するってのは悪趣味だべ?」
「言われてみれば野暮かもしんねえな。んだども雨が降ったら二人は会えねえべ?」
「うんにゃ。空の上、宇宙にゃ雨雲なんてねえから大丈夫だべさ。雨が降りゃあ地上からの人目を気にせんで楽しいデートができるべさ」
「あんれえ、ケンさんも意外とロマンチックだべな。おおっ、待ち人が来たべ。そいじゃあ、ケンさんごゆっくり」
「おお、シロちゃん、送ってくれてありがとな」
「ええって、ええって」
雨男の視線の先には赤い雨傘の若い女。手を振りながらこちらにやってくる。
「おお!
「んだ。こんだけ雨が降っとっから天文台の職員の方々も今日は定時で上がりだって。天文台保育所の子どもたちも、みんな帰ったから、わたしも今日は18時の定時で早く帰れたんだべさ。雨男のご利益に違いねえべ」
「かかか、そうかもしんねえな。さあ、時間もできたべ。うまいもんでも食いながらゆっくり話でもすっべ!」
「本当に久しぶりだべな。ありがとうね、父っちゃ」
「おお」
雨男は自分の紫色の傘を広げて、娘の赤い傘と並んで歩き出した。
雨男と七夕 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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