第5話 ある少女の日常

「ジェシカちゃんはしっかりしてるよね!」

「2人って見た目は似てるけど、ジェシカちゃんの方がお姉ちゃんみたいだね!」

親戚の皆さんがチヤホヤしてくれる。私は内心で、「(そんなんじゃないのになぁ....)」なんて思いながら、愛想笑いを浮かべる。自分の気持ちを上手く言葉に出来ない私は、いつも通りこうしてやり過ごす。

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「2人ともー!そろそろ出発しなさい!!遅刻しちゃうでしょ!」

お母さんの声が廊下に響き渡る。私にとっては日常の一コマである。

「分かってるってばー!」

呼応するようにサンドラの声が響く。これもまた日常である。私は玄関で1人、いつも通り立ち尽くす。目の前にある時計は7:56を指している。今日は8:00には出られそうだ。昨日より5分も早い。


「「行ってきまーす!」」

きっちり8:00、私たちは揃って学校へ向かう。そして私たちはと言うと、

「...............」

「...............」

終始無言である。

そりゃ毎日一緒にいるからさ、話題も無くなりますよね。

てくてくと歩みを進める。

ふう、やっと学校に到着した。時計を見ると8:35だった。今日は授業開始までまだ余裕がある。

「おはよー!2人とも!」

後ろから声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは、クラスメイトの1人、マリアンヌさんだった。

「おっおはようございます......まっマリアさん....」

ボソボソと消えるような挨拶をしてしまった。やはり家族以外と話すのは苦手だ。悪気はないんだけどな。

サンドラはと言うと、無言のまま下を向いてむすーっとしている。サンドラもやはり、家族以外に対してはこんな態度である。たまにこの子は、悪意があるんじゃないかと思ったり....

「あはは....」

そんな私たちを見て苦笑いするマリアンヌさん。

「(ごめんなさい、マリアンヌさん。)」

心の中で謝りつつ、並んで教室へ向かう。教室に入るとどうもクラスメイトの様子がおかしい。みんながみんなソワソワしているのは、流石に気の所為ではないだろう。


キーンコーンカーンコーン♪

チャイムが鳴った。みんなそれぞれ自分の席へ向かう。私達も同じように着席した。

ガラガラガラ。

程なくして教室の扉が開く。

「「「「おはようございます!!!!」」」」

「はい、おはよう。」

ぶっきらぼうに挨拶したのは、私たちの担任のショーン先生。いつも少し冷たいけれど、今日は一段と機嫌が悪そうに見える。クラスのみんなもヒリヒリしている。その空気は、次の先生の一言で、いっそう緊張感を増すことになる。

「では君たち、早速テストを返そうと思う。順番に取りに来なさい。」


「「「流石俺たちのマリア様!」」」

そんな声が教室の後ろの方から聞こえる。見るとクラスの男子数名に囲まれて、マリアンヌさんが得意げにしていた。彼女はその綺麗な見た目と愛想の良さから、男子達に大人気なのである。その上成績も良いのだ。非の打ち所がないとはこの事だろう。

「ほら、静かにしなさい。」

全員分のテストを返し終えた先生が声を張る。それを合図にして、みんなしずしずと着席する。

「今回のテストの出来だが、総じて酷いものであった。」

先生が不機嫌だった理由はこれなのだろう。

「このクラスの1位はいつも通りジェシカ、92点だ。2位もまたいつも通りマリアンヌ、84点。2人は流石だな。」

ショーン先生が私の名前を呼ぶ。嫌な視線を感じた気がするが、気の所為だと思いたいところだ。ショーン先生は続ける。

「飛んで3位が64点、クラスの平均点は51点だ。酷いものだぞ。」

そう言えばサンドラは何点なのだろうか。見るとあの子は机に突っ伏している。ちょっと、先生の話くらい聞きなさいよ......

「テストの成績は1部、貰える役職にも影響するからな。君たちも酷い役職にはなりたくないだろう。」

1部からヒッと悲鳴のような声が聞こえた。私たちは数年後、神父様から一人1つの役職を頂くことになっている。その中にはあまり役に立たないものだけでなく、人から疎まれるものまでもあるらしいのだ。あくまで噂だけどね。まぁ、誰しもそうはなりたくないものだ。

「よって今日の放課後、40点以下の者は強制的に補習とする。それ以上の点数であっても希望者は参加してよし。以上だ。」

そう言い残してショーン先生は教室を後にした。私はこっそりサンドラの席へ向かう。突っ伏したままのサンドラをよそに、こっそりテストを覗くと、

「(じゅっ、14点......)」

今日は1人で帰ることになりそうだ。


キーンコーンカーンコーン♪

終業のチャイムが鳴った。

私はサンドラを置いて教室を後にする。いつもならサンドラも一緒なのだが、あの子は補習があるから仕方ない。1人で昇降口へ向かう。すると、1人の女の子が声を掛けてきた。

「ジェシカ!ちょっと来て!」

声の主はマリアンヌさんだった。可愛らしい笑顔を浮かべている彼女を見て、綺麗だなと思う。なのに何故だろう、嫌な予感がする。

そんなマリアさんに対して私は、微妙な愛想笑いを返すことしかできなかった。彼女のコミュニケーション能力、少しくらい分けて貰えないかな。

私は連れられるままに歩いていく。これはどこへ向かっているのだろう。普段はあんまりこっちには来ないものだから、ここがどこだか分からない。この学校は広いのだ。ただ何となく、│人気ひとけのない方へと向かってる気がしてならない。さっき感じた嫌な予感が、一段と増した気がする。

「ジェシカ、着いたよ!」

マリアンヌさんがひとつの教室をにこやかに指さす。

今は使われていない空き教室みたいだけど、ここに何があると言うのだろう。言われるがままに入室すると、中には数名の人影があった。あれは、クラスの男子...?

ガラガラガラ

後ろで扉を勢いよく閉める音がした。マリアンヌさんはそのまま扉の前に立っている。まるで出口を封鎖するかのように。

「あんた達、よろしくね♡」

その声とともに、人影はこちらへと向かってくる。

嫌な予感とは得てして当たるものである。

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