第2話 最愛の人

「貴方の役職は純愛者です。」

神父様は言った。

「ありがとうございます。」

私は答える。

でも私の愛する人は決まっている。役職を貰うよりずっと前から....


「ただいまー!」

「あら、おかえりなさい。」

「ジェシカはー?」

「先にお部屋に戻ってるわよ!」

そう聞いて急いで部屋に向かう。

「ジェシカー!!」

扉を開けると同時に愛する妹に抱きつく。そんな私を、妹は優しく撫でてくれる。ああ幸せだなぁ。別にこんな役職は要らなかった。だって私がジェシカを大好きなのは、ずっと前から変わってないんだから!

「わたしね、純愛者だったよ!」

そう言って再び強く抱き締める。ジェシカは何も言わない。まぁジェシカが無口なのはいつもの事だ。

「それでジェシカの役職はなんだったのー!?」

私がそう聞くと、ジェシカは一瞬表情を曇らせる。どうも言いたくなさそうだ。それなら今は聞かなくていいや。

「むー、ならまた今度聞くね!」

その時階下から声がかかる。

「ふたりともー!ご飯できたよ!」


食卓を囲みながらお母さんは言う。

「そう言えば2人とも、役職貰って嬉しいのはわかるけど、あまり浮かれちゃだめよ?明日の遠足の支度は済んでいるの?」

「食べ終わったらするよー!」

「そう言っていつもサンドラは後回しにするでしょう?少しはジェシカを見習いなさいよ。」

母親の言う通りだ。ジェシカはいつもしっかりしている。そんな頼り甲斐のある妹に、私はいつも甘えさせてもらっているのだ。

私はご飯を食べ追えると、急いで支度して寝ることにした。明日の遠足楽しみだなぁ。


「2人はほんとに仲良しだよね!」

クラスメイトの声がかかる。バスの座席で、ジェシカに抱きついていたせいだろう。

ちなみに私はこのクラスメイトの名前を知らない。だってジェシカ以外に興味なんてないから!

アトラクションもご飯も、実はどうでもいい。いや、どうでも良くはないんだけど、でもそれよりも、ジェシカが隣に居ることの方が何倍も大切だから。

考えれば考えるほど、ジェシカのことばかりだなと思い知る。

そう言えばジェシカは私の事どう思っているんだろう。ふとそんな事を考える。

「着いたぞー!順番に降りて整列しろー!」

先生の声によって現実に引き戻される。まぁジェシカが私のことを嫌いなわけは無いし、別に心配する必要はない。

私はジェシカを連れて外に出た。


さて何をしようか。ジェシカさえ居れば私はなんでもいいんだけど。

よし、まずはご飯を食べよう。そのあとはジェットコースターに乗ろうかな!いや、それよりも宇宙船の乗り物があるはず!最近流行りのそれに乗ってみたいんだった!そんな事を考えながらジェシカを見る。彼女は寂しげな表情で頷く。

........え、寂しげ?気の所為かな。。再び愛する妹の顔を見る。いつもと変わらない可愛い顔がそこにはあった。

まぁ気の所為でしょう!せっかくだから楽しまないとね!ちょっぴりの気がかりを残して、私はジェシカと歩き始めた。


ひええええ!!

この乗り物怖いなぁ。

そっとジェシカを見る。ジェシカはあまり怖がって無さそうだ。

宇宙船に乗って、迫り来る隕石を撃ち落とすゲームと聞いていた。楽しそうだなーと思っていたのは認識が甘かったみたいだ。隕石は想像以上にリアルだし、速さもえげつない。1つでも当たったら、当たり所次第では死んでしまいそうな勢いだ。アトラクションなんだから、ここまでリアルじゃなくても良いのに...


ウー!ウー!ウー!

その時警報が鳴り響く。

「地震です。避難してください。」

いや、待って待って!それならこのアトラクションを止めてよ!逃げられないじゃん!私の願いとは反対に、乗り物は加速する。ねぇ!この乗り物故障でもしてるんじゃないの!!??非常停止機能とかないの!!??

いや、そんなことより!慌てて隣のジェシカの顔を窺う。

え、ジェシカ......???

「なんでそんなに冷静なの?」

異様な妹の様子に思わず素に戻って聞いてしまう。この非常事態においても、私の妹はパニックにならないみたい。落ち着いた顔をして前を見つめたままだ。怖くないのかな。

そんな私の気持ちを察してか、彼女の手が私の手を強く握る。凄く安心するなぁ。

それでも私たちを乗せた暴走列車は止まらない。

と、その時、

「(やば!!!)」

驚き過ぎて声にならなかった。明らかに隕石のひとつが、真っ直ぐにこちらへ向かって来ているのだ。

「(ジェシカが.....危ない!!)」

私は妹に覆い被さる。この子を守りたい!

次の瞬間、サンドラを強い衝撃が襲った。

それは、隕石にぶつかった衝撃ではなく.....

「ジェシカ!!??」

妹が私を強く振り払った衝撃だった。当然私は地面に打ち付けられる。

そして、起き上がった私が目にしたのは.....

微笑みを浮かべたまま動かない、妹の姿だった。

彼女は二度と、その口を開くことはなかった。


そのあと大人が沢山押し寄せた。

両親も来て泣いていた。

やはりあのアトラクションの安全装置は故障していたようだ。

事故だから誰を恨むでもない。

ただただ大好きな妹を守れなかった自分が憎かった。

「サンドラちゃん辛かったね。」

そう言って慰めてくれる。

嫌だ。私は慰められたい訳じゃないんだ。

お願いだから、誰か私を罵倒して欲しい。純愛者と言う役職を頂いておきながら、最愛の人を守れなかった私を。

そのギャップに耐えられなくなる。

うん、これは無理だ。

「サンドラ!」

背後から自分を呼ぶ声が聞こえるけど関係ない。

逃げ出すようにして、私は出口へ向かって走り出した。

どれくらい走っただろうか。後ろを振り返ってもとっくに遊園地は見えない。私は誰も追って来ていないことを確認する。

行く宛もない私は、一人線路横のを歩く。太陽はすっかり沈んでしまった。

ジェシカが居ないと生きる意味なんて感じられない。あの子が私にとって全てだったから。真っ暗闇の中を、ぽつりぽつりと歩く。

いっそこのまま後追いで死んでもいい、そんな風に考えながら、ただひたすらに歩く。歩く。

もうどれくらい歩いたか分からない。


と、その時目の前に女の子が一人走ってきた。見覚えがある...この子は、アンナだっけ?

目の前の少女は私に語りかける。

「サンドラ死んじゃったんでしょ。ジェシカが探してたの。だから私、2人を会わせなきゃと思って!だからお話を聞いて!ね?ジェシカ?」

そう言って隣に話しかける彼女。

はて、この子は何を言ってるんだろう。

死んだのはジェシカだし、私は彼女の目の前にいる。そして彼女が話しかけている先には誰もいない。

困惑しながらも私は声を絞り出す。

「あの...私生きてますけど。」

そう聞くと目の前の女の子は何やら驚き、自分と何もいない空間を交互に見る。

はて、何が起きているのやら。取り敢えずこれだけは伝えておこう。

「死んだのはジェシカだよ。」

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