第3話 "賢者"の苦悩
「聞いてよスーザン!私の役職は"霊能者"だったんだよ!」
隣で親友が語っている。
遠足だと言うのに全然関係ない話題だ。まぁ仕方ないか。
「死んだ人と話しても面白くないじゃん!」
アンナは続ける。
まぁ知ってたんだけどね。
ふと昨日の記憶が蘇る。
「貴方の役職は"賢者"です。」
神父様はそう言った。賢者とは、1目見ただけで相手の役職が分かるという役職だ。だから今朝アンナを一目見た瞬間に、"霊能者"であることは分かっていたのだ。なんだろう、雰囲気と言うのかな?言語化するのは難しいけれど、感覚的に分かってしまう。我ながら良い能力を頂いた。こんな能力を貰ったものだから、"狩人"だと言いふらしてるお調子者のマイクが、実は"市民"(特別な能力を持たない役職)だと言うことも、向こうで妹にすりすりしているサンドラが"純愛者"(一途に誰かを愛する役職)だと言うことも分かってしまう。そしてジェシカは....ん?
「着いたぞー!」
先生の声で思考が止まる。気のせいかな......
「解散!」
先生の号令でみんなが散り散りになっていく。そんな中で私はジェシカを探していた
。気のせいじゃなければ、あの子の役職は.....
もう一度彼女を見つけようと試みるも、見つからない。諦めた私は、親友に手を引かれるままに、アトラクションへ向かった。
アンナと過ごした一日はまぁ楽しかったよ勿論。けどね、疲れたわ。
この子エネルギー凄いんだもん。ずっとはしゃいでてさ。多分この子、一回もスマホ開いてないんじゃないかな。
と、その時、1件の通知が来る。それを見ると、
「(え、ジェシカが事故死した?)」
そんな連絡が来ていた。
これほんとに事故死なのかな。みるみる顔が青ざめることを自覚する。
自分に出来ることがあったかもしれないのだ。なんでかって、それは....
「ねぇ、どうして1人なの?」
隣で突然アンナが話し出す。独り言かな。疲れて頭おかしくなっちゃったのかな。
多分この子は、まだジェシカの死を知らない。だってスマホなんて見てないから。今すぐ伝えても良いけれど、楽しい親友の気持ちを邪魔したくない。嫌でも明日には分かることなのだから、今日くらいは幸せなまま帰宅して欲しい。
そんな親友の願いを知らないままに、アンナは突然言い出す。
「スーザン帰るよ!」
「あんたの家こっちじゃないだろ」
アンナは何故か、家と反対方向の電車に乗っている。明日は休みとは言え、早く帰る方が良いだろうに。その時アンナが言った。
「サンドラのこともあるしさ!」
その言葉に心臓が止まるかと思った。なんでこの子はそれを知っているんだろう。確かにジェシカの死で1番苦しむのはサンドラだろう。純愛者と言う役職を貰うほど、ジェシカを溺愛していたのだから。
さっきの連絡からここまで、一度もこの子はスマホを見ていない。このニュースは知らないまま家に返そうと思ってたのに。私が目を離した隙に見たのかな。
「.....アンナは明るいな。クラスメイトが死んだって言うのに。」
無意識にそんな言葉が出た。それは後悔から来る呻きのようなものだった。私は朝の時点で気付いていたのだ。
ジェシカの役職が"殉教者"である事に。
だから彼女が進んで死ぬ未来も、私なら予測できたはずなのだ。
先生に言うべきだったのか。サンドラに言うべきだったのか。或いは本人に.....。
自分ならこの悲劇を食い止められたのではないか。そんな考えが頭を巡る。
なんの為にこの役職を頂いたのだろうか、と自問自答する。
果たしてこの事故は、本当に事故なのだろうか。それすら疑わしい。
ジェシカは何を思って死んだのか。今となっては分からない。
「スーザンまた明日ね!」
親友の声が聞こえた気がするが、反応出来なかった。
アンナは足早に出ていく。
「ふう。」
私は家に向かう。
日はもうとっくに暮れている。今日が終わる。
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