第4話 再会と別れ

「死んだのはジェシカだよ」

その言葉に驚きを隠せない。だってジェシカは隣に...

ジェシカは何も語らない。いや、語れない?

確かにここまでジェシカは一言も発していない。スーザンもずっと不思議そうにしていた。彼女がジェシカを見えていなかったのだとすれば、確かに納得はできる....

「貴方が霊だったのね。」

ジェシカに問いかける。ジェシカは何も言わず、ただサンドラを見つめている。サンドラは何が起きているのかも分からない様子で、困惑しているみたい。

私は慌ててサンドラに状況を説明する。その後でサンドラは、今日何が起きたのか私に教えてくれた。


「なるほど、そんな事が....知らずにごめんなさい。」

「いえいえ、ありがとうございます。そこにジェシカがいるんですか?」


ジェシカは私の隣で、無言でサンドラを見つめたままだ。この子はもう言葉を発することは出来ないのだろう。それでも、

「はい、そして私は"霊能者"ですから。多分この子の気持ちも、わかると思います。」

大丈夫、私ならできる。

ジェシカの気持ちに集中する。彼女はじっとサンドラを見つめたままだ。私の意識が徐々に溶けていく。ジェシカと1つになるように。

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「私は....」

目の前の少女は口を開く。私はごくりと息を飲む。少し胡散臭いけれど、それでも信じてみたい。ジェシカの考えが聞けるなら、なんでもいいから縋りたい。

「サンドラの事が大好きだよ。」

その言葉に安心する。ジェシカは口数が少ないからそれを実感する事はほとんど無かった。たまに不安になる事もあったくらいだ。

「だからこそ、サンドラには幸せになって欲しいって思ってる。」

そんなこと出来ない。私にとってジェシカが全てだったのだ。ジェシカが居ないなら幸せになんて.....

「サンドラが私を大好きなのはね、ちゃんと伝わっていたよ。でもね、私がいなくても貴方は幸せにならなきゃいけないの。」

どう言う事だろうか。ジェシカ抜きで幸せになるってこと?私ひとりで?

そんなの無理だよ......

「私が居ないから幸せになれないなんて事は許さないから。」

どうして....どうしてそんな寂しい事を言うのだろうか。

少し間を空けて、目の前の少女は続ける。

「私ね、"殉教者"って役職を頂いたの。初めから私が死ぬことは決まっていたんだよ。だから落ち込まないで」

「.....!?」

驚き過ぎて声にならなかった。だから昨日役職を聞いた時、暗い顔をしていたのか。

「でもね、妙に納得したんだ。死んでもいいって思えたの。不思議だよね。」

そんなわけ無い。死んでもいいだなんて有り得ない。怒りとも悲しみとも言えない感情が溢れそうになる。それでも少女の語りは止まらない。

「私たちは2人でいるとお互いに甘えてしまうから、頼ってしまうから。それだと2人ともいつまでも成長できない。だから私たちはこの役職を与えられたんだと思うの。」

果たしてそうなのだろうか。確かに私はジェシカに頼りっぱなしだったけど、ジェシカの方はしっかりしてたはずだ。

「私は.....サンドラが、自分一人の力で幸せを掴むところが見たいな。」

どうして。それなら生きてる間にそう言ってくれたら良かったのに。どうして.....

「そう信じてたからね、死ぬのが怖くなかったんだ。サンドラなら大丈夫だよ。」

私は....私は........

溢れんばかりの感情はこんなにも渦巻いているのに。声が出ない。

「私そろそろ行くね。」

だめ、言わなきゃ。

「待って.....ジェシ....カ....」

私は必死に言葉を紡ぐ。伝えなければならない事があるのだ。

「今までありがとう」

うん、大丈夫。今なら言える。

「今までもこれからも、ジェシカの事が大好きだよ。」

でも怖い、寂しい。一人になりたくない。

「ジェシカ、」

お別れなんて嫌だ。出来ることならずっと一緒に居たい。

「聞いて....」

でもジェシカを心配させたくない。安心させたい。だから私は、



「絶対に、ジェシカの分まで幸せになってみせるね。」



言えた。

崩れ落ちながら、絞り出すように、それでも言えた。

いつもジェシカに頼りっぱなしの私だったけど、自分の意思で思っていることが言えた。

「だから....大丈夫だよ。」

なんとなくだけど、ジェシカが笑ってるような気がした。

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......あれ?

ジェシカに集中したあとから記憶が曖昧だ。たしか頭がボーっとして....

目の前にはサンドラが膝をついて泣いている。

そして、

「あれ、ジェシカ.....?」

ジェシカが見えなくなっていた。どこに行ってしまったんだろうか。

「ねぇサンドラ、大丈夫?」

返事は無い。落ち着くまで少し待つことにした。


程なくしてサンドラが口を開く。

「アンナ...だよね?」

「うん!アンナだよ。って、クラスメイトだよね?覚えてないの!?」

少しだけショックだ。

「うん!ごめん。アンナちゃん!」

「なあに?」

「ジェシカを連れてきてくれて、お話させてくれてありがとう。」

...........ふむ。

記憶は曖昧だし、肝心なことは何も分からない。2人はお話できたのだろうか。いや、サンドラがこう言うからにはできたのだろう。なんだかちょっと腑に落ちない。

それでもこうして感謝して貰えるのは嬉しいし、私は役に立てたのかもしれない。そう思うと少しだけ満たされた気がした。

サンドラは続ける。

「アンナちゃん!あの、そのー......友達になってください!」

なんだかサンドラの様子が今までと違うみたい。妹が死んでしまったのだからそりゃそうか。

いや、でもそれにしては晴れやかと言うか前向きというか....よく分からないけれど。

なんにせよ私の答えは決まりきっている。

「もちろん!これからよろしくね!」

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