第6話 危機脱出

「(痛いなぁ)」

別に叩かれたり蹴られたりした訳じゃない。それでも男の子2人に押さえつけられているのだ。そりゃ痛いよ。

「(なんで私がこんな目に....)」

私はその原因となった、人物を見つめる。

マリアは私と目が合うと、邪悪な笑みを浮かべた。いつもの魅力的な彼女と同一人物とはとても思えない、まるで悪魔のような表情であった。

「ねぇ、私が何を言いたいかわかる?」

悪魔のような少女が口を開く。私は首を横に振ることしか出来ない。

「あんたの事が気に食わないの。私より可愛くないくせに、調子に乗って!」

私は何も言い返せない。ただでさえ人と会話することが苦手なのに。

「テストの点数もいつも私より上、どうせズルでもしてるんじゃないの?」

完全な言いがかりだ。

「ほら、何とか言いなさいよ!」

顎を掴まれて睨まれる。両手は男の子に押さえつけられて、1歩も動くことができない。少女は徐々にヒートアップして行く。

「大体ね、その態度もいつも気に食わないのよ!ぼそぼそ何を言ってるかもわからない。まともに会話も出来ない。どうせいつも、周りのことをバカにしているんでしょう?姉妹揃って!!」

「(違う、そんなつもりは無い)」

思っている事が声にならないのだ。まさに今もそうだ。

目の前の少女の表情には、もう一切笑みはなかった。そこにあるのは怒りの感情だけだ。

「いつまであんたは無言なのよ!!!こうなったら.....」

マリアが近くにあった椅子に手をかける。

ガラガラガラ!

その時扉が勢いよく開く音がした。

「あんたなんか、死んじゃえ!!!」

少女が椅子を振りかぶった。私を押さえつけていた男の子は、いつの間にやら向こうへ避難している。

「(やばい、死ぬ!!)」

頭では分かっていても体が恐怖で動かない。それどころか声を上げることすら....!

その時扉を開けた誰かが、私を庇うように覆いかぶさってきた。

......サンドラ!?


ガシャーーン!!!!

教室中に大きな音が響いた。マリアの投げようとした椅子は、2人の所には届かずに地面に転がっている。1人の少女が投げつけるには、少々重すぎたようだ。

ほっと安心したその時、

「おい!!何をしている!!」

大人の男性の声が響いてきた。おそらく先生だろう。今の音を聞いて、駆けつけてきたのかもしれない。

「....まずい!」

そう言って悪魔のような少女とその取り巻きは、逃げるように走り去っていった。

「ジェシカ大丈夫?」

怪我は無い。抑えられていたところが少しだけジンジンする程度だ。

「(大丈夫だよ、ありがとう)」

あれ、声が出ない。いつもはサンドラ相手なら問題なかったんだけどな。まださっきの恐怖が残っているのかもしれない。

それでも表情から察してくれたのか、姉は安心したような表情を浮かべる。お陰でさっきまでバクバクだった心臓も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

あれ?

冷静になりつつある頭が、ある疑問を抱く。

「サンドラ、どうして...ここに?」

この子は補習中のはずである。

「どうしてって、一緒に帰ろうと思ったのに、ジェシカ先に行っちゃうんだもん。その後誰かについて行ってるから、心配で追いかけて来たんだよ。」

クラスのアイドルの事すら分からない姉は、そう言って笑う。確かにお陰で助かった。

でも、今言いたいことはそうじゃなくて.....

「いや、あの....補習は?」

「補習?なんの話?」

「(.......なんの話てそりゃ、テスト返却の時に先生が.....)」

そう言おうとして思い出す。

この子ってば、先生が補習の話をしている時、思い切り突っ伏して寝てましたね。

私が理解すると同時に、サンドラは微笑みながら言う。

「よし、一緒に帰ろー!」

私は小さく頷く。

そうだね、早く帰らなきゃ。私は姉の手を引く。

でもまずは......

「ん?ジェシカ。そっちは昇降口じゃないよ?」

「.........職員室。」

先生に謝りに行こう。

助けてくれたお礼に、一緒に行ってあげるからさ。

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