リアルなんて、こんなものだ。でも、それでいいのかもしれない。

フックの効いたタイトルからは想像がつきにくいかもしれませんが、とにかく、「リアル」を感じさせる作品でした。

現実と書いて「リアル」です。

登場人物の心境、潔世市という舞台、くわ助を巡るストーリー、そのどれもが、現実と遜色ないくらいの「リアル」を携えていました。

物語で「リアル」と聞くと、現実のイヤな部分を抽出した陰気なイメージを持たれるかもしれませんが、この作品の「リアル」は違います。

現実を、良い部分も悪い部分もひっくるめて、ありのままに捉えたという意味での「リアル」です。

現実で感じるようなマイナスの部分が表現されていることもあれば、素朴な人情、不器用な親子愛、時には心の支えとなるしがらみなど、もう、とにかく、現実を写実的に描いておられました。

フィクションには、なるたけ現実から遠ざけてくれるような娯楽的な側面を求められがちですが、たまには、こういった、良いも悪いもひっくるめた「リアル」な作品に触れ、自らの現実の解像度を上げてみるのも一興かと思います。

余談になりますが、私はこの作品を、「タイトルがぶっ飛んでて面白い」と思って読み始めました。
読み進めているうちに、自分でもちょっと笑ってしまいました。
まさか、私の行動そのものが、作中のとある登場人物の思うつぼだったとは!

してやられた、という気分です。

その他のおすすめレビュー

寺場 糸@第29回スニーカー大賞【特別賞さんの他のおすすめレビュー35