第4話 絶頂からのどん底

前回クリフ様とお会いしてから1週間程がたった。今日はステラ様の件についてクリフ様がラグナ家に報告しに足を運ばれる事になっている。僕にとっては今後の人生を左右する大事な時だ。

 前日から緊張のあまり全く寝られず目の下にはくまができてしまった。今も寝れずに一晩明けてしまった。そんな僕の哀れな姿を見た母さんが、いつもとは違い軽めの朝食に変更してくれたり、何かと気にかけてくれる。

 (あぁなんて素敵な母親なんだ!母さんほど素敵な女性に出会うことは今後無いだろ!僕は母さんの元に生まれてこれて本当に良かったよ!ありがとう!)

 と心の中でその優しさに涙した。

 なぜ直接本人言わないのかと言うと恥ずかしいからである。こう見えて僕はとてもシャイなのです。

 ちなみに父さんはと言うと、僕のこの哀れな姿を見て腹を抱えて笑っていた。「ぶはっ!お前、10歳とは思えない顔してるな!短期間で老けたな、ガハハ!」だって。この人は人間の心を持っていないのかもしれないと思った。息子に対してもっと優しくしてくれてもいいと思うんだよね、本当に。

 ましてや、事の発端は父さんだというのに白状ものすぎるだろ。いつか僕が父さんよりも強くなったら、クリフ様に送っていた手紙の内容は全て捏造ですって告げ口してやる。今、告げ口をしたのがバレたら多分ボコボコにされると思うのでまだその時じゃない。僕は負けると分かっている戦いには挑まない主義なのだ!決して、ビビっているとかそういう訳ではない、決して。

 とそんな事をかんがえながら、心優しい母さん手作りの朝食を食べていると、家の入口の方からノック音が響き渡った。ついに僕の運命の瞬間が訪れてしまった。

 (あぁ頼む・・・どうか、どうか! クリフ様じゃない別の人であってくれ! 近所のクソガキがイタズラでコンコンした時、近所のおばさんが野菜のおすそ分けに来たとか!そんなくだらんことであってくれぇー! 神様ぁぁぁぁ!後、僕もまだ10歳なのでクソガキでした・・・近所の子供達よ、ごめん)


 朝食を食べるのを中断し、両手を胸の前で組み、天を仰ぎながらそんな事を願っていると、入口へと迎えに行った父さんがお客様と一緒に我が家へと入ってきた。

 そして、目の前に現れた人物を確認した事により、僕の浅はかな願いは散っていった。その人物はクリフ様だった。


「こんにちはアルス君!ん?どうしたんだい、顔色がものすごく悪いけど体調でも悪いのかい?もしそうなら申し訳ない」

「こんにちは・・・あぁいえ、お気になさらず。ちょっと朝に弱いだけなので・・・」

 

 (あぁなんか急に体の震えが・・・あれ?もしかて僕、本当に体調悪かったする!? おぉすげぇ!クリフ様すげぇ!この人は僕の事なんでも分かっているのか?前回も心読まれたし・・・今から風邪って事にして部屋に篭ろうかな〜なんちゃって、へへ、へへへ、へへ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・)


 軽く挨拶を交わしたあとリビングの席に案内し、クリフ様と向かい合う形で席に着く。まだ何も話していないのに、僕の額、脇、手、足 つまり全身から冷や汗が垂れ流れてるいる。なんとなく今日話す内容は分かって居るが、全然心の準備が出来ない。頼むから良い結果だけを聞かせて欲しい。そうすれば僕のこの目の下に出来たクマも明日には消えることだろう。

 そして、クリフ様が話始めるまでの少しの間、僕は母さんが入れてくれたお茶を飲みながら、ただ静かに待った。

 ちなみに、緊張で喉が乾き過ぎて一瞬で飲み干してしまい、合計4杯がぶ飲みしてしまい、違う意味で気持ち悪くなってしまった。

 1人で慌ただしくしているとクリフ様が徐に話し始めた。


「今日私が来た理由は、前回アルス君に言われたステラの件について報告をしに来たんだ」

「・・・そっそうなんですか・・・それで、けっ結果はどうだったんですか?はっ早く教えてください!」


 あまりにも結果が知りたすぎて、前置きとか詳しい内容とか聞かずに、直ぐに結果がどうだったのか聞いてしまった。これは仕方ないのだ、ボールにとっては今後を左右する一大事なのだから。

 そんな僕を見て、父さんは「全くお前は・・・クリフはこんなんだが貴族なんだぞ。もう少し礼儀正しくしろ」と、ため息混じりに呆れ口調で言ってきた。

 (いやいや、父さんの方がもう少し礼儀正しくした方がいいんじゃないかな? いくら仲がいいとはいえ、自分よりも爵位が上の人に対して、こんな奴扱いって無礼すぎるでしょ?!)


「ははは、ありがとう!そんなに僕の事を心配してくれていたのかい? アルス君はグレットとは違って優しいね!

君のその優しさに免じて、グレットが私の事をこんな奴呼ばわりした事は、水に流そう」

「はははは、ありがとうございます。父には僕の方から厳しく言っておきます・・・」


 やはりさっきの父さんの発言を気にしていた様だ。父さんもさすがに肝が冷えたのか、一瞬にして顔から血の気が引いていった。自業自得だ。


「さて話を戻して、前回アルス君が言っていたステラの件だが、君の言った通りだったよ。 あの後帰って直ぐに聞いてみたんだが、最初はなかなか素直に教えてくれなくてね、数日前にやっと本心を打ち明けてくれたんだ。

 アルスの言っていた通り、家庭教師と勉強している間はものすごく気を張っていて勉強に手がつかなかったんだって。家族以外の人と2人っきで居るのはとても緊張するけどその事で僕達家族に心配をかけたくなかった・・・アレス君が教えてくれ無かったら、ずっと気づかずにあの子に辛い思いをさせ続けてしまうところだった。

 それに、今回こうやって真剣にあの子に向き合って、本心を聞くことができて、なんだか家族として今まてまよりも絆が深まって成長する事ができたって思うんだ!だから今回の事は本当にありがとう!感謝してもしきれないくらいだよ!」

「いえいえ、僕はただそうなんじゃないのかな?って思た事を言っただけで、実際はステラ様に真剣に向き合ったクリフ様の努力の賜物だと思います!」

 

 (はぁ〜〜良かったぁ〜僕の言っていた事的外れな事じゃなくて!これで、明日には僕の目の下できたどす黒いくまは綺麗さっぱり消える事だろう・・・・・・!うぉぉぉぉ!これで僕の人生は終了せずに済むんだあぁぁぁぁ!)

 なんて事を考えしまったのが良くなかったのか、クリフ様の突然の発言に僕は絶望へと一気に引き戻される


「突然なんだけど、アレス君・・・君にステラの勉強に同伴してもらいたいんだけどどうだろうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」


 あまりにも予想外な提案に呆気に取られてしまい、僕はただ一言それだけを発し、思考は停止してしまった。

 その後クリフ様は呆気に取られてしまっている僕に、なぜそういう考えに至ったのか細かく教えてくれた。


「先程も言ったけど、ステラは家庭教師と2人きりで授業を受けると緊張してしまうから、誰かが同伴すれば少しは緊張しなくなるんじゃないかと思ったんだ!」

「そ、それって僕じゃないとダメなんですか? 僕じゃなくて家族のクリフ様か奥様が同伴した方が、ステラ様も喜ぶと思うんですげ・・・・・・?」

「それも考えはしたんだけど、流石に仕事を放棄してそちらに回るのは無理があってね・・・頼めないかな?」


 この人、僕が頼みを断れないのを分かっていてお願いしていないか?ていう、僕じゃなくても領主の頼みを断れる人なんてほっぽど度胸のある人じゃなきゃ無理なのでは?

 それに、こう言う時の父さんは使い物にならない。前回も僕の味方ではなくクリフ様の味方になってたし。

 悪気があってそうしてる訳じゃない事くらいは分かっている。そりゃ僕の将来の事を考えての発言だってのは分かっているんだけど、息子としてはもう少し味方になってくれてもいいんじゃないかな?と思う。

 なので、今回は父さんには頼らないで行こう。それに、僕にはまだ策がある!


「で、でも僕の家からだとクリフ様のお宅まで行くのに半日はかかってしまいますし、あまりに時間を掛け過ぎてしまうと、母さんの手伝いができなくなってしまいますし・・・・・・それに、子供1人で野山を歩くのは危険と言いますか・・・怖いなぁなんて・・・」


 そう!これが僕の頭で考えられる最高の策だ。行くのに時間がかかってしまうという言い訳は誰でも考えられるだろうが、僕はここからが一味違うのだ!そこに母さんの手伝いが出来ないという、親思いいの優しい子と言う印象を与える事により、そんな子を数時間とはいえ親元から引き離すのは心苦しいという罪悪感を植え付けるのだ!

 それに僕のあの言葉を聞いた母さんは「アレス!あなたなんていい子なの!」と満面の笑みで僕に抱きついて来た。人前では恥ずかしいから抱きつくのは辞めて欲しかったけれど、これの効果は絶大に違いない。

 そして、野山が怖いというなんとも子供らしい意見!ある程度道が整備されて安全とはいえ、盗賊や魔物が出ない訳でわないので、流石にクリフ様もこればっかりは見過ごせないだろ!

 僕の追撃はこれだけでは終わらない!最後に使うのは上目遣い!これはよく母さんが父さんに何かをおねだりする時に使っているのを結構見る。それをやられる度に父さんは顔を赤くしながらおねだりを聞いていた。見事な尻に敷かれっぷりだ。

 それて、そんな母さんのテクニックを見てきた僕の上目遣いは、クリフ様にも刺さるはずだ!それに、中身はあれだが僕はそれなりに容姿は良い方だと思う。母さんはことある事に褒めてくれるし、父さんも「お前、外面だけは良いよな」なんて言ってくるし、そんな外面だけは良い僕の上目遣いだ、間違いない!後、息子に対してそんなド直球に言わなくても良いだろ!もっと息子の内面も愛せ!


 (ふふふっ・・・・・・完璧だ!完璧過ぎて自分の凄さに驚いてしまうよ、うふふ。もしかしたら僕は将来大物役者になれるかもしれないなぁ〜〜まぁ、めんどくさそうだからなる気はないけど)


「あぁ〜その事なら問題ないから安心してくれ!こちらで送迎の馬車を出すし、護衛もくけるから! ていうかもう手配してあるから!そうすれば、盗賊や魔物に万が一襲われたとしても大丈夫だろうし、馬車だから移動もそれほど時間が掛からないから、お母さんの手伝いも問題なくできると思うよ!?だから頼めないかな?」


 はい、この人完璧に確信犯です。準備良すぎるだろぉぉぉぉ!この人僕が断れないの分かってるし、何かと言い訳を付けて辞退しようとしている事も分かっててこの話持ってきただろ! うぅぅ〜もうやだ、この人怖い。

 そして、僕はその後なんの抵抗も無くただ頷く事しか出来なかった。

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ファミリア~紡がれる想い~ ばーぼん @bourbon_1031

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