第2話 頼みの理由

この国では皆10歳になる年を迎えると学園に通える用になるから皆喜ぶのだが、僕は違った。あんなものになりたくは無い、畑を耕している方が僕には合っている。なぜながら僕は魔力量がものすごく少ないからだ。

 皆生まれた時に魔力量の測定を行うのだがものすごく少なかったらしい。基本的に魔力量は両親からの遺伝が大きく関わっており、父母共に魔力両親が多ければ子もそれなりの魔力量になる。だが時に全く遺伝しないで生まれて来る場合もあるのだ。多分僕は後者に当てはまるのだと思う。

 何故かって?それは父さんと母さんはめっちゃ、それもうびっくりする程魔力量が多いから!僕の両親はこの辺境ではそれなりに有名人だと、隣に住むトムおじさんから聞いた事後ある。かつてこの村を敵軍の襲撃からたった2人で守り抜いたらしい。その事を父さんに聞いたら本当は2人じゃなくて5人で戦ってやっとだったって言ってたけど、それでも充分凄いと思うのは僕だけでは無いと思う。父さんは今でも魔法騎士をやっているから、当時騎士として前衛を張っていたって言われた時は違和感はなかったけど、母さんも前衛を務めて至って父さんよりも剣の腕は凄かった聞いた時は流石に度肝を抜かた。いつも穏やかで優しくて、怒ったりする所をほとんど見た事はなかったし、普段は家事したり畑で作業したりしてる姿しか見れないから、剣を振り回している姿が想像できなかった。

 両親から聞いた話をトムおじさんに教えてあげたら、「そんなすげぇ両親からとんだ出来損ないが生まれてきたもんだ!ガッハッハッ」って大爆笑してたのを僕は今でも根に持っているからね。いくら冗談とはいえ流石に当時8歳の少年の心にはものすごく突き刺さったよ。


 (トムおじさん天国で元気にしているかい? おじさんが奥さんに黙って買った高級な壺今でも大切に保管してるよ・・・この前は奥さんにバレそうになって場所を倉庫から違う倉庫に移し変えようとしたら、落として少しヒビが入っちゃった事は許してね)


 そんなことを心の中で天国のトムおじさんに語りかけているとクリフ様のコホンっと言う咳払いで自分の世界からこちらの世界へと引き戻された。


「あっ・・・すみません、状況が理解出来ず少し困惑してしまいました」


 とりあえず謝罪だけはしておこう。自分の世界に入り込んでトムおじさんに語りかけていたなんて言えない。そんな事をしてしまったら、「君、頭大丈夫かい?」なんて言われてしまう。あぁ〜想像しただけで悲しくなっちゃうな、なんて思っていたらクリフ様が先程の魔法学園入学の件について話を始めた。


「理由言わずに入学してなんて言ってごめんね、急に言われたら誰だって困惑するよね」

「いえ大丈夫です!聞く覚悟は出来ています!」

 (いやぁ〜実は全く覚悟なんて出来て居ないんですけどね!どんな理由だろうと僕は魔法学園になんて行かないんだからね!・・・そうだ!今から殴られる覚悟をしておこう!断るのは決定事項で、断ったら100%殴られる・・・痛いだろうなぁ・・・・・・でも、その時の為に今から覚悟を決めておけば痛みも和らぐはずだ、きっとそうに違いない!よし覚悟はできた!話を聞こうじゃぁないか!)

「実はうちにも君と同い年の娘がいてね、名前はステラって言うんだけどものすごく人見知りで静かな子でね、学園に入学して上手くやって行けるか心配でね、どうしようか迷っていたんだけど・・・・・・そういえば僕の知り合いの子供にステラと同い年の子が居るじゃないかと思い出したわけだよ!」

「・・・つまりほの知り合いが父さんで・・・同い年の子が僕だということですか?」

「そう!アレス君、君だよ!グレットとは手紙で時々やり取りをしているんだけど、いつも君の事ばかり沢山書いてあってね、もの凄く真面目だ!とか、勉強熱心でとても博識だ!とか、自慢の息子だ!とか・・・そんなやり取りをしていたのを思い出してピンっと来たわけさ!」

 

 はい・・・犯人は父さんでした。このバカ親父見栄を張って嘘つきまくってるじゃないか!僕は1ミリたりとも真面目でも無いし、勉強熱心で博識でもない、自慢出る所なんてひとつも無いダメ息子だよ!常に考えているのは、どうすれば畑仕事を上手くサボれるかとか、楽して生きていけないかなとか、そんな事考えているどうしようもない野郎です・・・・・・自分で言ってて悲しくなってきた。あっ、目から汗が・・・。と1人で悲しみにくれていると、父さんと目があった。申し訳なくなった父さんは目があった瞬間もの凄く速さで首を横に向けた。常人たら首痛めてるよ?もう若くないんだから自分の体のこと考えな?と不覚にも父さんの心配をしてしまった。

 僕は目を鋭くしクリフ様の後ろに隠れて居る父さんを睨めつけているとクリフ様が申し訳なさそうな顔で話を再開した。


「君にとって魔法学園に入る事が大変な事は分かってはいるんだ・・・グレットから君がもの凄く魔力量が少ないと言う事は、この件を以前相談した際に予め聞いていたから。でも、頼めるのは君しか居ないんだ。学園でステラの事を僕の変わりに見守ってあげて欲しいんだ、ある程度知っている者が近くに居れば少しは安心出来ると思うんだ!誤解しないで欲しいんだけど、ずっと一緒いて欲しいと言っている訳では無いんだ、学園での生活は自分の事を優先してくれて構わない!ただ、ステラの事を少しで良いから気に留めといて欲しいんだ・・・何かあった時に力になってあげてはくれないか? これは貴族としての頼みではなく、1人の娘を持つ親としての頼みだ・・・だからこれに絶対は無いから無理なら断ってくれて構わない」


 そう告げるクリフさんの眼差しはとても真剣なもので、その佇まいはただただ娘が心配で過保護な、どこにでもいる父親だった。

 だけど流石にこの件を僕の判断で決める訳には行かない、試験を誰でも受ける事が出来るとはいえ、入学してしまったらそれなりにお金はかかるし、畑仕事の人でも無くなってしまい母さんが大変な思いをしてしまう。

 だから僕は父さんに、どうしたら良い?とアイコンタクトで聞くと、


「魔法学園への入学はお前にとっても悪い事では無いと思う。確かに今のお前は魔力量がとても少ない、それは体内ある魔力を貯める為の貯蔵庫が小さいからだ。だがお前はまだ子供だ・・・鍛えようと思えばいくらでも強くなれるし魔力量も増やす事は出来る。お前がもし魔力量の事を気にしていて入学する事を迷って居るのなら、逆に入学する事を俺はお前に進める」


 いつになく真剣な表情で真っ当な事を言ってくる父さんに少し調子が狂うけど、ここまで言われたら断り切れなくなってしまうでは無いか・・・・・・くそぉぉぉこの父親は外面だけはいいんだから困ってしまうよ全く・・・はぁ僕はいったいここからどう立ち回ればいいんだぁぁぁぁぁっと心の中で叫んでいるとクリフ様が追い打ちをかけてるく。


「確かにグレットの言っている事にも一理あると私も思う!少ない魔力量から鍛え上げて名を馳せた魔法師も居ないわけでは無いからね、アレス君にもまだ希望はあると思うだ!それに学園への入学が決まった場合、学費等は僕の家が払うからそこも心配しなくて大丈夫だよ!お願いしているのはこちら側だからね、これくらいはさせてくれ」

「・・・・・・分かりました、そのお願い承らせていただきます・・・」


 僕は断る勇気すらない小心者です、心の中とはいえ調子に乗ってすみませんでした。ここまでされたら、流石に断れる雰囲気では無いと僕は思うんです。多分ここまで言われたら誰だって断れないと思う、ましてやまだ10歳のいたいけな少年だから尚更だよ。

 それに、クリフ様ってもしかして人の心でも読めるんですか?確かに僕はお金の事も心配していましたけれども、ピンポイントでそこの話しを引き合いに出してきます?

 クリフ様はかなりのやり手と見た。きっと商談とか上手いんだろうなぁ〜、なんの仕事をしてるかは知らないけど。


 そして、学園へ入学する事は決まり今後の事について話し合うことになった。

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