エピローグ
「おら、下僕。お前ビビり倒しだっただろ。罰ゲームが待ってるから覚悟しろ」
「罰じゃなくてゲームってのが不穏だな」
マディは言った。アリカはそこそこに機嫌が悪かった。
二人は今一仕事終えてきたところだった。
二人はさっきまで世界の外側『ハザマ』にて邪神と戦ってきたところだった。
そして、マディは疲れた体を労いつつ宙を飛んでいるところだった。
後にはアリカだ。コウモリの群れを媒介とした浮遊魔術で飛んでいる。いつもの移動手段だ。大ガラスよりもこっちの方が慌ただしくなくて好きなマディだった。
「体はもう大丈夫なんだよな」
「当たり前だろ。お前の主アリカ様だぞ」
マディはさっきまで真っ黒な蛇龍に姿を変えられ、見渡す限り真っ白な『ハザマ』の中でアリカの従姉妹の魔族のおやつを食い逃げした邪神と戦っていたのだ。
邪神は高さが200エークもある常識外れの大きさの巨人で、マディはそれに合わせて260エークの長さの蛇龍に変えられたのだ。あまりにも普段の感覚と違いすぎて訳が分からなかった。
景色がなにひとつない真っ白で逆に良かった。普通の世界で変えられていたらマディはあまりの自分の変容に気が狂っていたような気がした。
しかし、これでもまだマシかもしれない。
これまで、はちゃめちゃに体をいじくられながら戦ってきたマディだ。
アリカの下僕になってどれだけ経っただろうか。
マディはもう数えることもなくなっていた。
「次の仕事ももう入ってる。お前が休む暇なんかないから覚悟しろ」
「勘弁して欲しいぜ」
今日まで色んな場所に行かされて、色んなやつと戦わされて、色んなやつに会ってきたマディだ。
もう、普通の人間だった頃の生活の名残など欠片もなくなっていた。
今のマディは魔族の僕で、そしてマディもそれにすっかり慣れてしまった。
すっかり、人間ではなく魔族の側になってしまった。
でも、それでも良かった。いつだってめちゃくちゃで酷い目に遭ってばかりで基本逃げだすことばかり考えているが、死んでも仕方ないと思うことはもうなくなっているのだから。
死んだ方がましかもしれないと思うことはたびたびあるが、それでもなんとか生きていた。
「ん? おいおい。見ろ下僕。この辺はまるでお前と会った時の場所にそっくりだな」
と、唐突にアリカが言った。アリカが罵倒以外の用事でマディを呼ぶことは珍しい。しかし、確かにアリカの言うとおりここはいつかマディが倒れていた草原に良く似ていた。違う場所なのは間違いないのだが。
「そんなこと良く覚えてるな」
「思い出は大事にするんだよ私は。ん、おいおい、おあつらえ向きじゃないか」
アリカはニヤニヤしながら指を指す。
マディはその先を見る。
そこにあったのは十字路だった。草原の中を走る道が交差する十字路。
まさしく、マディが倒れていたのと同じような十字路。
そこに、あの時のマディのように誰かが倒れていた。
ボロボロの鎧、折れた剣、そして血だまり。どう見ても瀕死だった。
「大丈夫かありゃあ」
「ほほーん。死にかけか。面白い。行ってみるぞ下僕」
「面白がるなよ。助けねぇと」
二人はそう言って、そのボロボロの人間が倒れる十字路へと下りていった。
草原は二人とその一人以外は誰も居なかった。
景色は見渡す限りに人家はなく、緑と青と白色の光景が広がっていた。
空はバカみたいに晴れ渡っていて、風は心地よかった。
マディは今はそれを感じ取れた。
それを感じ取りながら、虫の息になっているその誰かの元へ向かった。
アリカの魔術なら助けられるだろう。大威張りで直してさらに威張り散らかすに違いない。
急いで下りていきながら、この人間はどんな風に生きてきたんだろうかとマディは思った。
十字路にて魔族に出会う 鴎 @kamome008
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