第17話 エピローグ

 楠国の北部の町に一人のカーキー色の半ズボン、白のタンクトップ、肌が日焼けした、ショートヘアの十七歳程の少女が草原の丘の上に立ち、北方を眺めながら、右手には拳銃M92Fと左腰にはヴィクトリノックスの折りたたみ式ラージブレード/エボークを差していた。

 彼女は勇ましく映り、暫く動かなかった。

 天上の神はキリスト教、仏教が滅亡し、信仰者が死霊魔術を行う術師に精神と信仰を絶やされ、その他の信仰が怒り狂う世界に彼女は対峙していた。

 見れば花の草原は美しく風になびいていた。しかし彼女の目や意識には入ってこない、そんな世界に佇んでいた。

 遠くを見つめる厳しい目付き、俊敏性がある様な脹ら脛と太股、少女が使いこなすにはやや重い、銃とナイフ。

 彼女にはそんな事、大した事ではなかった。生きる為の只の道具だから。

 彼女は何を信仰をしているのか。トルコよりのイスラム教で女性として戒律はあまり厳しくなく、イスラム圏では一番厳しくないかもしれない。

 彼氏や夫の事を執拗に聞く行為は?

 それはハラスメントになる時代には変わらず、社会がそれを更に厳格化していびつに捉える法を制定し、男女間で関係が分断された時代でもあった。この為、出生数が激減し、また老若男女関わらず尊厳死が認められ、人口減少に拍車のかかった世界でもあった。

 彼女の名前は?

 計(けい)だった。

 折りたたみナイフを開くと徐ろに遠くに投げた。見事に兎の首に突き刺さっていた。

 今日の夕飯になるのだろう。

 全ては生きる為に喰い物を調達しなければいけない野生の世界。

 そして各宗教と折り合いつつ戦う世界。一人には厳しい世界だ。


 私の名は瑛(えい)と言う。白松春人から辛うじてこの世界に転生して来る事が出来た。この世界にはかれこれ八年間世話になっている。皆様におかれはましてはこれからもよろしくお願いしたい。

 死神に取り憑かれた者として。そしてまたその死神の能力を得た者として。

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忘却された町を彷徨う死者の道程 幾木装関 @decoengine

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