今様の短話形式、しかして古風に練り込まれた地の文の冴え

 恋愛小説部門に応募した作品だという。
 よくある、部門をわきまえずに遊びにかかった小説かと思ったし、実際読んでみると、恋愛小説の皮に、格闘小説だの伝奇小説だのの餡をアホほど詰め込んだ小説ではあった。
 だがそれは手抜きを意味はしていないだろう。
 各話はそれほど長くなく、1エピソードをコンパクトに畳んで転か結でほどほどに畳むという、最近の流行りに乗った作風という気がする。
 ただ文章への拘りが古風だ。
 最近は文字を入れない行間を多めに挟んで読者に読みやすくするというのが流行りだが、それがない。拒絶するように空白改行がない。
 また、会話に比して状況を示す地の文の割合が多く、どういう状況なのか、何を描いているのかを過不足なく確かめられる。
 桜吹雪への拘りが示すように、文章による資格情報の提供もきっちりとなされている。
 なんとなれば、「いやジャンル的にそれは反則だろ」みたいな暴投をするのも、今日日のはやりと言えば流行りだ。
 今日日を踏まえて今日日に合わせたこと、今日日のはやりを踏まえてやりたいこと、今日日とか特に関係なしにこれを小説でやりたいということ、それらが筆者の思う通り、存分に表現されているという印象を受けた。
 反閇を踏みながら二河白道を火にも氷にも落ちずに渡り切る、その試みとして個人的には十全と思いました。
 面白かったです。