2.導入Ⅱ - 後輩の部屋、ゲームの提案

2.導入-後輩の部屋

▼後輩の部屋


//SE:靴下の状態で、フローリングの廊下を歩く音

//SE:部屋の開き戸を開く音


「ん、せんぱい。ちゃんと手洗ってきた?」


(頷く先輩)


「ならよし。じゃあ……ここ、座って。うん、私の隣。お客様用の椅子はないし、それなら私のベッドの上くらいしかないじゃん」


「お客様のせんぱいのことを床に座らせるっていうのも、なんだか忍びないわけだしさ。だから遠慮しないで、こっちに来て?」


(先輩、促されるがままベッドに座る)

//SE:ベッドに座る音

//声を右側から聞こえてくる形に


「うん、よろしい」


「ところでせんぱいは、女の子の部屋に入るの、はじめて?」


「ちなみに私はー、お母さん以外の人を入れたの、せんぱいが初めてだよ……あ、でもあんまりじろじろ見ないでよね。それは流石に恥ずかしい」


「あと私の部屋、そんなに暑くならないからさ、普段はクーラー付けてないんだよね。苦手だし。せんぱいは、暑くない? つけなくても大丈夫? ……って、おーい、せんぱーい、聞いてるー?」


「あ、もしかしなくても……せんぱい、緊張してる?」


「やー、そりゃあそうだよね。するに決まってるよね。好きな女の子の部屋にお呼ばれして、家には親もいないから、二人きりで」


「おまけに告白の返事の保留中。緊張しないはず、ないよね」


「ね、せんぱい。こっち、向いて?」


//右→正面からの声に変更

//後輩、胸に手を当てて大きく深呼吸


「あのね、せんぱい……ごめんなさい。私、せんぱいとは、付き合えない」


(ガックリとうなだれる先輩)


//後輩、できるだけ柔らかく続ける


「ああ……落ち込まないで。話には、続きがあるの。聞いてくれる?」


「私ね、昔から誰かを好きって気持ちが、わからないんだ。もちろん、友達として、っていうのなら、わかるよ? でも恋愛的な意味で好きってなると……どうしても、信じられない」


「好きだって、口だけならなんとでも言えるでしょ。でも、裏では何を考えているのかわからない」


「私は、それが怖いんだ」


「今日ね、せんぱいが告白してくれたときも、ちょっとがっかりした」


「せんぱいが私に優しくしてくれたのも、親身になって勉強を教えてくれたのも、一緒にゲームで楽しんだのも……全部、私とそういう関係になりたかったからなんだーって、そんなふうに思っちゃって」


「でもね先輩。私、嫌な気持ちだけじゃ、なかったんだ。うれしいっていう気持ちも、あったの。でも、それだけじゃ私、勇気が出せない」


「だからさ、せんぱい。私にせんぱいを信じさせてよ」


//話し方が軽い調子に戻る


「……って、それだけ言っても、困っちゃうよね」


「だからさ、ゲームをしようよ。せんぱいが大好きなゲーム」


//真面目ぶった声で解説する


「といっても、いつもしているゲームではありません。一人用のゲームでも、二人でも出来るゲームでもなく、私と先輩、二人でしかできないゲームです」


「こほん。せんぱいは、愛してるゲーム、というものはご存じでしょうか? ルールは至ってシンプル、愛の言葉を囁いて、囁かれた方が照れてしまったりしたら負けというゲームです」


「なんでも昔に流行ったみたいで、いまでも大学生の方々が合コンなどでしていたりする、なんて話もあるみたいです」


「せんぱいにしていただくゲームは、これを元にしたものです。本来は交互に行いますが、今回、せんぱいはただ聞くだけでいいんです」


「その間、せんぱいからは、私になにもしてはいけません」


//楽しげで親しげな声で続ける。


「つまり、私がせんぱいを誘惑するので、せんぱいがそれに耐えられれば、晴れてお付き合いのはじまりはじまり、ということだね。どうかな、簡単なゲームでしょ?」


//先輩に近づき、囁く。


「せんぱいは好きな子に好意を囁かれたとき、果たして私の約束を優先して我慢できるか、それとも己の欲望を優先してしまうのか。せんぱいがどうするのか私、知りたいんだ」


「長々と説明はしたけどさ、せんぱいは、ただ耐えるだけで私とお付き合いできるんだよ。むしろお得なくらいじゃん。やらないってことは、ないよね?」


「ちなみに、せんぱいが負けても罰ゲームとかはなしでいいよ。せんぱいは、ただ、私とお付き合いできないだけ。この先、私達はただの先輩と後輩という関係のまま……つまりは現状維持ということでいこうよ」


「私だって、別にせんぱいと縁を切りたいーってワケじゃないし……私、友達いないからさ」


「まあ、もし辛抱たまらん! って襲われたりしちゃったら、せんぱいってそういう人なんだー、って少しは軽蔑しちゃうかもだけど」


「で……どうする、せんぱい? このゲーム、受けて立つ?」


(先輩、受けて立つと返す)


「うん、わかった。じゃあせんぱい、そのままベッドに座っていてね。あ、正面を向いてくれた方が、私的には楽かな? ゲームはもう、始まってるんだよ?」

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