あなただけに懐いているダウナー後輩と、放課後愛してるゲーム

大宮コウ

1.導入Ⅰ - 二人きりの保健室

こちらは『第2回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト』のASMR部門応募作です。

作品の形式上、主人公=あなたに向けての、ヒロインの一人語りの台本形式で話が進行します。


それでは、よろしくお願いします。

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▼学校の廊下⇒保健室


//SE:遠くに聞こえる蝉の鳴き声

//SE:学校の廊下を上履きで歩く音

//SE:引き戸を開いて、閉める音


「あ、せんぱい。来てくれたんだ。今日も授業、おつかれさま」


「うん、私はいつも通り、ここで勉強してたよ。一応、私はまだ授業の時間だからね」


「先生はいまはいないよ。学校の巡回だってさ。だから保健室は、いまや私のものってことだよ」


「でも、せんぱいが来たから……いまからは二人じめだね」


「ほらほら、せんぱい。立ってないで座って座ってー。ここに来るまで、暑かったでしょ?」


//SE:椅子に座る音

//軽い調子から一転、畏まって話す


「こほん。それでね、せんぱい。私、見せたいものがあるの」


//SE:紙を出す音

//明るい声で


「じゃーん。期末テストの答案用紙。どう? すごいでしょー」


「全教科70点以上だよ。せんぱいが、お昼休みとか放課後、わざわざここまで来てくれて、私に勉強教えてくれたおかげだね。私、授業なんてずっと出てないもん。ねえせんぱいせんぱい、褒めてくれてもいいんだよ? よくやったー、とか。ほらほら」


(先輩、後輩を褒める)


「んっふふ~。私も、ここまでできるとは思わなかったよ」


「本当に、ありがとね? せんぱいには何か、お礼しなきゃだ。私、せんぱいには、貰ってばっかりだから」


「ほらほら、何か欲しいものとかない? 細かいことは気にしないでさー。私とせんぱいの仲じゃん」


「えーっと、具体的には……せんぱいと私が会ってから、もう二ヶ月だよ? 毎日ってわけじゃないけどさ、それでもけっこう会ってるじゃん」


「せんぱいが体育の授業中に転んで怪我しちゃってー、保健室に来たせんぱいを、今日みたいに先生がいなかったから私が代わりに手当てして。私がこっそりやってたゲームを偶然せんぱいもやってたから、その話で盛り上がって。そしたら、次の授業が始まってて。せんぱい、怒られちゃったんだよねー。んふふ、忘れるわけないよ~」


「まー、まさかそのときは、こうしてちょくちょく来てくれるとは思わなかったけどさ」


「あ。嫌じゃないよ。せんぱいと話している時間、私、好きだから」


「それにさ、せんぱいと会ってなかったら私、もう学校辞めてるかもしれなかったし。教室には、通えてないけどさ。それでも登校はできてるし、勉強もこうしてできてるし。我ながら上出来だよ」


「そう。せんぱいは実は私の恩人なの。せんぱいはなんでもないーって言うけど、そうやってなあなあでいるのも、なんだか不健全でしょ? ねね、何か欲しいものとかない?」


「うーん、もしないなら……あ、そーだ。この前話したゲーム、まだ持ってないって言ってたじゃん。中古でも気にしないなら、買ってあげよっか。そしたら一緒にできるじゃん。うん。我ながら名案かも」


「……あ、でももう夏休み、始まっちゃうんだ。うーん、それだとだめか。いや、オンラインでやるのはさ、ちょっと味気ないじゃん?」


「私としては、こうしてせんぱいが側にいる状態で一緒にやりたいっていうか……って、なんか変な言い方になっちゃったね」


//話題を変えるように、声の調子をわざとらしく変えて


「というか、せんぱい、夏休みはどう過ごすの? バイトとか、するの?」


「私はー……いつも通り、家にひきこもって、ベッドの上でごろごろゲームでもしながら過ごしてる予定。他にやることがあるわけでもないからね」


「普通に教室で授業を受けて、学校で過ごしてたら、友達がいてまた違ったかもだけど……私には、せんぱいくらいしかいないから。それとも、せんぱいは一人で寂しそうにしている後輩を、どこかに連れていったりしてくれるのかなぁ。なーんて……」


(先輩。それなら、と後輩を夏祭りに誘う)


「……え、夏祭り? せんぱいと私が、一緒に?」//想像もしてなかったことを聞いた時のように


//言葉を飲み込んでから、誤魔化すようにわざとらしく愉快げに話す


「……そう、だね。いや、迷惑なんて思わないよ。思うはずないよ。ただ、突然のお誘いに驚いちゃって」


「だってさ、これまで私とせんぱいと過ごしていたのも、この学校の中だけでしょ? 付け足すなら、下校のときのバス停までくらい」


「だから夏休みの間もせんぱいと一緒にゲームで遊べるかなーって下心はあっても、いきなり夏祭りに誘ってくるとは思ってなかったっていうか……」


「あ、夏祭りは別に嫌だったりするわけじゃないよ。私にだって、夏祭りへの憧れくらいあるもん。人が多いのは、苦手だけどさ。それでもせんぱいと一緒なら、楽しめそうだし」


//後輩、一転して声を潜めて、探るように問う


「でもね、せんぱい。私の知る限りだと……普通のなんでもない、普通の先輩と後輩って関係だとね……二人で夏祭りに行ったりとかは、しないんだよ?」


「せんぱい、私に何か言いたいことあったり……する?」


(先輩、後輩に付き合って欲しいと告白する)


「……そっか。せんぱい、私のこと、好き、なんだ。その、そういう意味で」


「もしかしたらなーって思ってはいたけどさ、まさか本当にそうとは、思わなかったよ」


//考えるように、少し間を置く

//後輩、顔色を伺うような、おずおずとした少し固い声で


「……あのさ、せんぱい。今日の放課後……つまりはこれから時間、ある?」


「せんぱいがよかったら、私の家、来てくれないかな?」


//近づいて、耳元で囁く


「告白の返事はそこで、ね? せんぱい」

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