第15話 必要

 なりたい自分が、見つかった。

白宮しろみやさん、それ、ほんと?」

 本当なら、私の想定通りだ。


 はるくんが、私のものになる……!


「だって朝倉あさくらさん、そうして欲しいんだよね? そうすれば、僕のこと、考えてくれるもんね?」


 でも、何だろう。

 これって、私の陽くん?


「うん。考えていてあげるよ。だから、なりたい自分、ちゃんとなってね!」


 だが、好都合だ。

 今の陽くんなら、私を見てくれそうだ。

 私の言う通りに、してもらおう。


「もちろん。ねえ朝倉さん、僕、かわいい?」

 陽くんは、微笑んで言った。

「え、う、うん! かわいいよ!」

「今も?」

「う、うん」

 間違っていないはずだ。


「じゃあなんで、僕のこと考えてくれてないの?」


 陽くん、どうしたの……?

「考えてないって……どういうこと?」

「だって、鈴木すずきさんも、田村たむらさんも……」


 は?

 鈴木さん? 田村さん?

 なんで、私の前で他の女の名前を出すの?

 陽くんは、私のことだけ見てればいいんだよ。

 なのに、なんで?

 鈴木 美織みおりも、田村 凛々子りりこも、どうだっていいじゃん、関係ないじゃん。


 ……え? 凛々子ちゃん?


「凛々子ちゃんが何?」

「……いや、いい」

 そう言って、陽くんは顔を背けた。

「そっか。いいならいい」

 私たちの間に、沈黙が流れた。


「ねえ、白宮くん。私ね、この前の数学の小テスト、満点だったの。すごいでしょ!」

 なるべく、先程の会話から離れた話題を振りたかった。

 それに、私に興味を持ってもらわないといけない。


 「お宝」、教えてあげないと。


「そう。僕は、今日の漢字テスト満点だったよ」

 そう……?

 なんで? 私のことは?

「そうなんだ! 私も、漢字テストはたまに満点取れるよ!」

「ふーん……」

 あれ? 陽くん?


「やっぱり、僕のこと考えてくれてないんだ。今の僕、かわいくないんだ。ごめんね」


 陽くん、やっぱり今日、変だよ。

 誰? 私の陽くん、おかしくしたの。


 ……凛々子ちゃん?


「白宮さん、よく聞いて」

 陽くんは、顔を上げて私の目を見た。

「白宮さんは、私が幸せにしてあげる。だから、私のことだけ、ちゃんと見てて。私を、信じて」

「……」

 陽くんは、目を逸らした。



「気持ちだけなら、要らないから。ちゃんと、幸せにしてくれる?」



 再び私の目を真っ直ぐ見た。

「絶対、してあげるよ」

「……」

「……」


「ありがとう、朝倉さん! 信じてるから!」


 白宮さんは、前と同じ、輝かしい笑顔でそう言った。

 でも。


 私のことは、どうでもいいって言うの?



――数時間後

『凛々子ちゃん、白宮さんと何か話した?』

 ……

『どうしたの?』

 どうしたのって、何よ。

『とぼけないで。白宮さんが、会話の中で凛々子ちゃんの名前を出したんだけど。何かしたでしょ?』

『何も。白宮くんとは、ちょっと趣味が合うだけ』

 そんな訳ないでしょ?

『今日の白宮さん、全然私に興味ないみたいだった。前までは、心を開いてくれてたのに』


『元々、興味なかったんじゃない?』


 は?

『凛々子ちゃん、何言ってるの?』

はな、白宮くんのこと、ちっとも考えてないよね。自分のことばっかり』


 考えてない……

 ――こいつだ。田村凛々子が、陽くんをおかしくしたんだ。


『あんた、ちゃんと頭使って話してる?』

『ほら、すぐ暴言吐く。自分さえ気持ち良ければいいんでしょ? 白宮くんは、そこが気に入らないんじゃないかな』

 こいつ、急に何を言い出すの?


『華、自分のこと、よく見てみなよ。そのうち、誰も華のことなんて見なくなるよ。結希ゆきも、そう。』


『そんな訳ない。結希ちゃんは、私のことをちゃんと見てくれてる』

 結希ちゃんの悪口まで言うなら……

『だから、その結希すらも、華のこと見なくなるよって言ってるの』

 ……こいつは、私たちのことを何も知らない。

『あ、ちょっと用事。じゃあ』


 ……

 田村凛々子は、全部間違ってる。

 ……間違ってる。


 陽くんは、そんな奴と関わってはいけない。鈴木美織もそうだ。

 あんな人たちは、陽くんに要らない。



 私しか、陽くんを幸せにできない。

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私が書いた、宝の地図 つきまる @tsukimaru_poyopoyo

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