松鏡に映るものは何者ぞ。

本作は学園を舞台としたミステリである。

学園、しかも全寮制という、極めて閉鎖的な状況を利用した、いわば「密室」ものである。

しかし、何をもってして密室となるのか。
物質的、空間的限界が密室の全てではない。
人間をがんじがらめにするのは、社会的階層であり、またその能機能に与えられた知性でもある。

この物語は、探偵役の姫烏頭 蒼雪(ひめうず・そうせつ)という少年によって、能楽という知見を用い、紐解かれる。

全体を読了した後、私に残ったのは心象は「松鏡」である。

能のお舞台には、松がある。
あれは、鏡に映った松である。

この物語には、対応する人物と人物が複数描かれている。
かつてあった事件と、今起きた事件と、その各々に類して見える誰かがいる。

しかし、それは表層の類似である。

そこに「内的解像度」からの読み解きをぜひ加えて見て欲しい。

見える景色が変わるから。


これは、密室であり、
決して密室ではないことが、
分かる者と、分からない者との残酷なまでの差異を描いた物語でもある。

その他のおすすめレビュー

珠邑ミトさんの他のおすすめレビュー633