命の輪郭
rainy
命の輪郭
脇役の人生歩んできた母が突如主役に躍り出た日
「キーパーソン」と書かれる私ミステリー小説の登場人物めく
マスク紐酸素チューブがのしかかる蝶の羽に似た母さんの耳
いつの日か母なる引力失えば私はどんな空を漂う
母さんの白い足裏深海の魚の如くゆっくり動く
核シェルター あるいは母の足元にしゃがみ見上げたスカートの天蓋
本当に死んじゃいそうでお母さんもう死ねなんてもう言えないよ
「先生に傷つけられた」と泣きじゃくる母の母となり慰めている
母さんが包んだ餃子のひだに似た小さな怒り刻々と沸く
本音などとても言えない「延命は望んでません」と美しく言う
母さんを退院させる命の火手にし嵐の中行くように
母と我真空パックになっている部屋でほとんど窒息しそう
結核で閉じ込められた若き日の母の両手を握りしめたい
どれ位母の死体に抱かれて眠れば私は捕まるのだろう
母よりも先に死ぬという大いなる甘えに溺れてみたき時あり
呼びかけに返事をしない昏睡の母を冷たい母だと思う
母さんの肩持ち体を揺すりつつわずかな命を撹拌させる
母さんの胸に手を置き剥き出しの心臓の動きこの手に握る
母さんの鎖骨の中の湖の光に静かに漕ぎ出すボート
急速に冷えゆく体日没の後の霜月の大地の如く
命の輪郭 rainy @tosihisa
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