違法正義

@HasumiChouji

非法制裁

『徳は、たぶん善よりは劣っているにせよ、それでも独自に「永続的な制度を具現する」ことができるのであり、善の人の犠牲においても勝ち抜かねばならぬ』

『法律とすべての「永続的な制度」は根源悪の猛攻撃だけでなく、絶対的潔白の影響力によっても破壊されるのである。

 法律は罪と徳のあいだを揺れ動くのであって、それを超越するものを認めることはできない。

 そして、法律は根源悪にむけられるべき罰則をもっていない。

 しかし、他方ではたとえ徳の人、ヴィア船長が根源善の暴力だけが悪の堕落した力に相応すると認めているにしても、法律はこの善を罰せざるを得ないのである』

ハンナ・アレント『革命について』より


「嘘でも冗談でも皮肉でも何でもなく一応は尊敬してる御二方に、こんな嫌味を言うのも何だが……」

 その女……もしくは少女は、本人が言ってる通りの嫌味っぽい口調で、そう切り出した。

「スポーツでは『名選手が名コーチになれるとは限らない』は常識だそうだが……その実例が偶然にも2人もここにガン首並べてるとはな……」

 ここには……3つの相容れない「正義」の代表者が揃っていた。

 だが……全員がゲンナリしてるのは同じなようだ。

「警察に引き渡したい所だが……困った事に、ここが警察だ……」

 1つ目の正義……「正義の味方」ネットワークの代表と言うべき御当地ヒーロー「羅刹女ニルリティ」は、呆れたように、そう言っていた。

 どうしてだ……?

 たしかに、俺には、生まれ付き異能力は有る。

 けど……それは、すごいチャチなモノだ。

 で、そのチャチな異能力で……何で……警察署を無茶苦茶にするほどの被害を起こせたんだ?

「まぁ、いい……。あんた、一応、表の顔は法律家だろ。私達だって人の事を言えた義理じゃないが、あんたは、単なる犯罪者じゃない。あんたは、あんたが仕えてた『法律』って名前の神様の顔に唾を吐きかけた。そして、あんたは、最悪の裏切り者だ。自分自身の信念と職業倫理を裏切った」

「え……えっと……そこまで言う?」

 2つ目の正義……「正義の味方」ネットワークに所属しない「独立系ヒーロー」の「クリムゾン・サンシャイン」は……俺がブチのめしてしまったにも関わらず、俺のやった事が駄目なのは確かだが……多少は情状酌量の余地は有ると思ってくれてる……ようだった。

「だから、言っただろう……いずれ、こうなるって……。地獄への道を舗装してるのは……善意でも悪意でもない。単なる安易な選択を現実主義だと勘違いして、自分も関係ない奴も地獄に突き落したマヌケは、歴史上、どれだけ居たと思う? もし、『阿呆である事』が殺人より重い罪だったら……この馬鹿は、たった1回の公判で最高刑を言い渡されるのは確実だ。こいつには、ちゃんと、罪を償わせろ。この馬鹿を、どこかに逃がせすツテならいくらでも有るが、安易にそんな真似をしたら事態は更にややこしくなる。」

 羅刹女ニルリティからは辛辣極まりない反論。

 そして、最後の1つの正義。

 その「正義」は、何も語らなかった。

 ……でも……。

 その沈黙こそが……どんな罵詈雑言より、俺の心をえぐった。

 俺がイソ弁をやってる弁護士事務所の経営者の安本さんは……。

 ……ただ、ただ、鎮痛な眼差しで……プロテクター付きのライダースーツを改造した冷静に考えると結構マヌケなコスチュームを着た俺を凝視みつめていた。

 どうして……こうなったんだ?

 そして、ここには4つ目の正義は無い。

 今の時代、警察こそが「悪」と化し……俺は、その「悪」に立ち向かった……つもり……だった。

 ……けど……。

 俺は、どこで間違った?

 そして、どうすべきだったんだ?

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