最終話 百鬼夜行の跡継ぎ
「わわっ。寝坊した!」
わたし、大江真弥の朝は、たいてい慌ただしい。けど今日は、その中でも特別慌ただしかった。
それもそのはず。目が覚めて時間を見たら、いつも起きる時間はとっくにすぎたの。どうやら鳴ってた目覚ましを止めて、そのまま二度寝しちゃったみたい。
けど仕方ないじゃない。少し前までは、まだまだ布団に入ってグーグー寝ている時間だったんだもん。
大急ぎでパジャマから着替えて、部屋を飛び出す。向かうのは、道場になってる離れの部屋だ。
「遅いぞ。何やってたんだ」
道場に入るなり、そんな声が飛んでくる。葛葉君だ。
それに、お父さんや、今日は百鬼夜行のみんなも揃ってる。
葛葉君はあれからも、相変わらずお父さんや百鬼夜行のみんなに修行をつけてもらってる。
と、そこまでは今までと一緒なんだけど、一つだけ、大きく変わったことがあるんだよね。
「お前は、俺のいる百鬼夜行の長になるんだからな。修行に遅刻してくるようじゃダメだろ」
「うぅ、それはわかってるけどさ、こんなことになるなんて思ってなかったんだもーん!」
スズちゃんを助けるため、葛葉君と結んだ、百鬼夜行契約。
けどスズちゃんも助け出したことだし、契約はもうおしまい。そう思ってたんだけど、なんと百鬼夜行契約って、一度結んだら、どちらかが死ぬまで一生続くんだって。
さらに言うと、百鬼夜行の配下になった方は、他の人とは百鬼夜行契約をできなくなっちゃうの。
つまり、わたしと葛葉君はこれからずーっと百鬼夜行の長と配下って関係で、葛葉君は他の百鬼夜行には入れなくなっちゃった。
「だから、前に言っていただろ。勝手に百鬼夜行契約を結んじゃダメだって」
お父さんが、ちょっぴり困ったよう言う。けどお父さん、そういう大事なことは、全部しっかり話しておいてよね。
とにかく、このままだと、お父さんの百鬼夜行に入るっていう、葛葉君の夢が叶わない。さすがに、そのまま知らん顔なんてできやしない。
ならせめて、わたしがお父さんの後を継ぐ、新しい百鬼夜行の長になってやろうじゃないの。
というわけで、今はわたしも葛葉君と同じように、お父さん達に修行をつけてもらってるの。
おかげで、こうして時々、いつもより早い時間に起きることになっちゃった。
「なあ、大江。お前は、本当にこれでいいのか?」
今日の修行が終わったところで、葛葉君がそんなことを言ってくる。
「そりゃ俺としては、お前が百鬼夜行の長として、幸太郎さんの後を継くれるのは嬉しいぞ。けど、元々そんな気はなかったんだろ」
「うん。少し前までは、そうだった」
百鬼夜行なんて継がないで、普通の人間として生きていく。ずっと、そう思ってた。
だけど、この前のシノザキの一件で、思ったことがある。
「スズちゃんが拐われた時、お父さん達は駆けつけるのに時間がかかったし、妖怪の犯罪者が出ても、捜査できる人はとっても少ないって言われたでしょ。けどわたし達がきちんと修行を詰んだら、少しは力になれるかもしれない。それに、わたし達がもっと強かったら、もっと安全にスズちゃんを助けられたかもしれない」
シノザキに勝てたのは、わたしと葛葉君以外に、スズちゃんもいたから。もしあの時スズちゃんがいなかったら、今頃どうなってたかわかんない。
あんまり考えたくないことだけど、もしまたあんなピンチになった時、力が足りなくて悔しい思いをするのは嫌だ。
そう思うと、わたしにできることなら何だってやりたかった。
「それに、わたしが人間として生きたいって思ったのは、妖怪だってバレて怖がられるのが嫌だったから。けど本当の友達なら、妖怪だって話しても、きっと大丈夫だよね」
わたしが妖怪だって知って、それでも友達でいてくれたスズちゃん。スズちゃんのお父さんだって、人間と妖怪が仲良くできるようにサポートしてくれてるって言ってた。
それを思うと、今まで人間として生きるってこだわってたのも、もういいやって思っちゃった。
「そっか。なら、無理して修行してるってわけじゃないんだな」
「うん。そうだよ!」
ホッとしたように、軽く笑う葛葉君。けどその後、ちょっとだけ意地悪そうな顔になる。
「なら、今日みたいな遅刻は今後一切なしだな。今度遅刻したら、承知しないぞ」
「ふぇっ? そんなーっ!」
そりゃ、修行はするって決めたけどさ、早起きだけは、ちょ〜っと手加減してくれると嬉しいな。
だいたい、わたしが主ってことは、わたしの方が偉いんだよね。葛葉君の態度、全然そうは見えないんだけど!
「俺の主になるんだから、半端なことは許さないからな。あと、幸太郎さんの弟子って意味では、俺の方が先輩だからな。たるんでるようなら、兄弟子としてビシビシいくからな」
えぇーっ! 主と兄弟子って、どっちが偉いの?
お父さんの百鬼夜行の跡を継ぐ。そう決めはしたけど、どうやら色々大変みたい。
百鬼夜行なんて継ぎません! 無月兄 @tukuyomimutuki
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