小説家ワナビどもがムカつくので欠点を指摘してやった

秋犬

この話を見た人は生きて帰れません

「さーてと、今日もイキリワナビを成敗してやるか」


 俺は自慢の愛機を立ち上げると、クソみたいな小説サイトを開いた。まるで肥だめのような自意識過剰の自己愛者どものオナニー会場を見ているだけで反吐が出そうだ。


 ある日、こういうものは叩けるだけ叩いていいと偉い先生が言っていたので俺も叩いてみようと思った。そこで捨てアカ作ってちょっとつついてみたら泣き言言って作品ごと消す奴とか顔真っ赤にして議論(笑)かましてくる奴とかいて超笑える。俺みたいな最底辺の弱者がコメントしてるなんて思わないんだろうか。俺如きに消耗するワナビどもの断末魔が見たくて、俺は今日も脊椎反射でコメントを書きまくる。


 ***


「最弱スキルレベル1からの成り上がり」


 感想:タイトルに面白みがない。読む気を無くす。書くのやめれば?


「乙女ゲーに転生したら死にキャラだったので悪役令嬢目指します」


 感想:悪役令嬢飽きた。つまんないからやめれば? それよりおっぱいうp


「スライムとゴブリンをお供に鬼ヶ島を目指す件」


 感想:うっわ寒。読む価値なし。生きてて楽しい?


「この話を見た人は生きて帰れません」


 感想:うわキモ。もう少しうまいタイトルないの????笑


 ***


 全く、世の中くっだらない文字列で溢れてやがる。何が書籍化だ、何が応援よろしくだ。お前ら自分の顔鏡で見たことあるのか? どうせ読書家気取ってラノベしか読まないチー牛みたいな陰キャか化粧下手なのをすっぴんのほうがいいからとか自然派気取ってクソみたいなBLばっか読んでる腐女子ばっかだろ?


 くっだらねえくっだらねえ。


 お、早速顔真っ赤反応だ(笑)どれどれ(超笑)


『感想どうもありがとうございます。せっかくお読みくださっているようですが、タイトルだけで読む気をなくされたということで残念でなりません。僕の書いている最弱レベル1は僕の好きな某ラノベ作家の某作品を読んでいて、当時いじめられていた僕が勇気をもらったキャラを想像しながら書いています。いじめられっ子の僕でもラノベを読んで元気をもらったんです。もしあなたが読む気をなくしたとしても、僕は書くことをやめません!迷惑なのでもう感想を書かないでくださいね!』


 あ-、チー牛君がめっちゃ即マジレスしてきてウケる。こんなん即削除確定だろ。そんなんだからいじめられるんだ。あー可哀想可哀想。一生ネットの中で優等生やっててくださーい。


「感想を書かないでと言われたら書きたくなるので書きますね。せっかくだから一話だけ読んでみました。クラス転生ですか?大体クラス転生ってどういう気持ちで書いてるんですか?どうせ後でざまぁとかデスゲとかやるんでしょう?それで成り上がった主人公が脳みそ空っぽのアニメ頭のヒロインとくっついて終わるんでしょう?もう見飽きたんですよ。タイトルだけで飽きるんです。生きてる価値ありますか?」


 あ、流石に削除された。チー牛君怒っちゃったね、参った参った。


 スラゴブの方は……よしよし、削除されてるな。タイトルだけで条件反射的に感想書き込んじまったが意外と評価されてるな……??? 面白いのか?? スラゴブのくせに……雉枠は一体何になるんだよ! 畜生、ちょっと読んでみたいじゃねえか……。


 でも削除されたっていうことは作者の目には入ってるわけだ。一秒でも嫌な思いをしているなら俺は満足だ。てめえらのクソみたいなプライドに一瞬でもヒビが入れば、それで俺は報われる。


 アニメ研究会だか何だか知らないが俺の持論を聞きもしねえで迷惑だからって俺を追い出したあのキモオタどもめ。あんたらのつまんねえ萌え絵なんて俺は見たくないんだよ。もっと高尚な議論をしたいんだよ。それなのにあいつらいつまでも他人の絵を見てブヒブヒ言ってるだけで進歩が全くない。だからオタクはバカにされるんだ。


 俺は違う。俺の理屈は正しいし、俺が本気を出してラノベを書けば天下を取る自信がある。なんならラノベから直木賞だって取ってやる。それで「史上初!ラノベレーベルからの天才作家が今日スタジオに!」って毎日テレビに出て俺を虐げたアニメ研究会が如何にキモかったかの話をするんだ。


 俺が本気を出せばラノベなんてすぐ書けるんだよ。ほら、俺だってアニメ研究会追い出されてるから追放系の主人公の気持ちはよくわかるよ? 俺の気持ちをそのまま書けば意外と注目されるんじゃないの? いや、間違いなく注目される。だから俺は追放系の主人公の気持ちを味わうために、今は鋭気を養っているのだ。これは取材だ。相手から嫌なことを言われたらどう反応するかのテストなんだ。その上、向こうのメンタル向上にも一役買ってるわけだ。いやー、俺って大天才。


 あ、悪役令嬢のほうも削除されてる。しかも削除前後にお仲間から「変な投稿は無視してください!」だってさ! なんだよこのキモ女の連帯感! 女なんてどうせ何の益にもならない腐ったゴミみたいな小説しか書けないんだから、小説投稿サイトも女人禁制とかにすればいいのにな!


 だいたいキモいんだよ、なんだよこの改行。そして「愛してる、ふぁ!」って何だよ。ふぁ、だって、ふぁ! レッシーソラオと友達なのかよ! 現実の女は「ふぁ」なんて言わねえんだよ! キモキモのキモ! 現実見てくださーい! だから女は(自主規制)しか価値がないとか言われちゃうんですよ-! うえーグロ! 穴しか価値がないなんて恥ずかしいですねー! 俺なら死んじゃうね!


 あー(自主規制)の書く小説は面白いなあ! まことに興味深い! 結局(自主規制)が欲しいだけなんじゃねえのか! 最後は結ばれてハッピーエンドってか!! 結ばれるって意味わかってんのか!! ヤってるんだろこいつら!! やっぱり(自主規制)しか能のない奴らは(自主規制)で文章書いてんのか!! 文章書いてないで繁殖して少子化に貢献しろよクソ(自主規制)が。マジでクソだな。


『この話を読んだんですか? どうでしたか?』


 あ? あーあのクソつまんないホラーっぽい奴か。タイトルだけでクソつまんなさそうなのに読むわけねーだろ。どうでしたか、だって。だから空気も行間も読めない陰キャは大嫌いなんだよ。


「タイトルだけしか読んでいません。面白くないですから」


 このくらいのシンプルな煽りでいいよな?


『読んでいないのにつまらないとわかるなんて、すごいですね。貴方は超能力者か何かですか?』


 なんだこいつ即レスしてきやがる。うぜえな。


「はいはいすごいすごい。俺すごいから消えてくんない?」


『消える? 消えますとも。貴方のその過剰な自意識と一緒に消えましょうか』


「何でそういうこと言うんですか? 誹謗中傷で訴えますよ?」


『最初に誹謗中傷してきたのは貴方ですよ。IDで追いかけたら、いろいろなところに誹謗中傷を書いているじゃないですか』


「僕は誹謗中傷なんてしていないですよ。言いがかりは辞めてください。僕は小説家のみなさんの欠点を指摘してよりよい作品にしてもらいたいために敢えて苦言を呈しているんです。あなたも欠点を指摘して改善すればもっといろんな人に見てもらえる作品が書けると思うんですけどね」


『欠点を指摘? 笑わせる。読んでもいないくせに欠点を指摘だと?笑』


 うるせえなこいつ。メンヘラ(自主規制)か? さっさとオナって寝てろよ。


『大方その欠点を指摘する癖とやらで子供の頃からトラブルばかりだったんだろうね。小学生では空気読めない奴って仲間はずれにされて、中学では不良に椅子と財布にされて、高校では文化祭を欠席して大学ではトイレで飯を食っていた匂いがする。好きな女の子に告白したらキモいって言われたことあるんじゃないかい?』


 な、なんだよこいつ! 気持ち悪いな!


『ついでに君のアルバイト先でも嫌われていて、新しい女の子が入って教育係をやりたくても社員が女の子に張り付いているだろう? 一度バイトの女の子に声をかけたら相手が嫌がっているとか言って辞めていったんだよな?』


 ……なんでこいつはそれを知ってるんだ?


『ちなみに君はLINEで次はいつ会えるだの飯に行こうだの映画を一緒に見ようだの今日はスーパームーンだの連日浮かれたメッセージを送っていただろう? そういう空気の読めないところが皆に嫌われるんだ、わかるかい?』


 待てよ、なんでこいつは俺のこと知ってるんだよ。バイト先の奴なのか? なんで俺の捨てアカわかるんだよ!!


『別にこれは誹謗中傷でもなんでもない、君個人の欠点の指摘だよ。君の人生がよりよいものになるよう、我々も祈っているわけだ』


 我々?


『もっとも、君の人生は今日で終わりなんだけどね』


 は? やっぱりマジ基地だこいつ。


『タイトルもう一度思い出してみなよ』


 タイトルは、確か……「この話を見た人は生きて帰れません」だったかな。


『どうして君はこのタイトルが見えるの?』


 はっとして新着作品一覧に飛ぶ。先ほどまでそこにあった「この話を見た人は生きて帰れません」は存在しなかった。慌てて今やりとりしている作品の掲示板の作者紹介をクリックすると、存在しないという。


 じゃあ、俺は一体誰とレスバしてるんだ?


『まあ、生きて帰すつもりはないからね』


 瞬時にPCの電源が落ちた。猛烈にファンが回り、そこから嫌な匂いがする。機械の匂いじゃない、生臭い匂いだ。


「待って、お願い、もう一度、チャンスをくれ。俺が悪かった!」


 部屋の電気も消えた。どこかから生暖かい風が入ってくる。後ろに誰か立っている。


「もうしない! もう誰の悪口も言わない! 誰とも関わらないで生きていくから! お願いします!」


 PCのファンが勢いよく回る。その音だけがやけに響いていた。


 ***


『しかし恐い怪物だった。意味のない誹謗中傷を繰り返す謎のアカウントほど小説投稿者にとって恐いものはないからね』


『でも、覚えておいて欲しい。無差別の誹謗中傷より恐いのは、Twitterで捨てアカを作って君らの宣伝や日常のツイートを全てRTしていいねを押す行為だ。こういうのはブロックしても無限に湧いてくるからね。本当に恐いのは無差別の悪意なんかじゃない。君を狙った特定の悪意だ。それじゃあ、二度と会わないことを祈るよ、さようなら』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説家ワナビどもがムカつくので欠点を指摘してやった 秋犬 @Anoni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ