告白と告白

半ノ木ゆか

*告白と告白*

「俺と付き合ってくれませんか」

 大学の桜の木の下で、彼が緊張した面持ちで言った。

「よ、よろしくお願いします……」

 花吹雪とともに、ワンピースの裾とロングヘアがなびいた。


 アパートの階段を登っている時も、まだ胸がドキドキしていた。

 真新しい部屋に、一枚の姿見が置いてあった。その前でロングヘアのウィッグを外す。目の前に、髪の短い男子学生が立っていた。

「ど、どうしよう……!」

 は頭を抱え、くずおれた。今になってはずかしさが押し寄せる。鏡のなかの自分が耳を真っ赤にしていた。

 物心ついた頃から、ぼくは可愛い恰好が好きだった。スカートを穿いたり髪を伸ばしたりしたかった。でも、親が許してくれなかった。大学入学と同時に一人暮しをはじめて、その夢がこの春、やっと叶ったのだ。さっそく毎日女装して通っている。

 彼の笑顔が脳裡をよぎる。ぼくの返事を聞いて、とても嬉しそうだった。

 勢いでつい「よろしくお願いします」だなんて言ってしまったけど、彼はもちろんぼくが男であることを知らない。性別を告白すべきかどうか、ぼくは迷った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

告白と告白 半ノ木ゆか @cat_hannoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ