エピローグ

雪の花

 その日は学校が休みにもかかわらず、優牙は朝からシルバーを走らせていた。

 気持ち良く、風を切る。

 目的の場所に着いた。『喫茶スローアップ』だ。

「おはよう」

 入口の前に康広がいた。優牙に気づき挨拶をしてきた。

「おはようございます」

 康広は既に準備をしてくれているようだった。店の前に様々な色のスプレー缶を並べている。

 優牙が康広にお願いしたのだ。店の外壁に絵を描いていいか、と。康広は快く承諾してくれた。

 好きなようにやってくれと言い、康広は店の中へ入っていった。

 優牙は早速壁の前に立って、絵を描き始める。何を描くかは決めてあった。

 しばらくすると、小玉がやってきた。絵を描いている優牙のズボンを引っ張ってくる。六花と比べると、積極的で甘えん坊な女の子だ。

 優牙は休むことなく集中して絵を描き続ける。

 日がだいぶ高くなったころに、茉莉と蓮がやってきた。二人はたまごサンドとコーヒー牛乳の差し入れを持ってきてくれた。二人は一時間ほど絵を描く優牙の姿を眺めてから、去っていった。気を利かせたのか、一言二言喋っただけだ。

 優牙は絵を描き続ける。

 太陽が西に傾き、夕陽が差してきたころ、母の雫がやってきた。雫は腕を組んで優牙の隣に立ち、優牙の絵をじろじろ眺めていた。雫は優牙に一言も声をかけずにいなくなった。

 夜になった。優牙はずっと絵を描き続けている。

 絵を描く意味を見い出した、そんな気がした。

 これからも、絵を描いていきたい。そう思った。

 仕上げはペンを使った。細部まで細かく形を整えていく。

 夜も遅くなった。

 優牙は街灯に照らされるその絵を眺めた。

 雪だ。雪の降り注ぐ、森の絵。

 舞い降りる雪は、六角形の結晶。雪の花。


〝六花〟


 彼女との出会いは様々な感情を優牙にもたらした。

 これからもずっと、彼女は優牙の生きる指針だった。

 大切なことをたくさん教えてくれた。

 この世界はカラフルに彩られているんだって、教えてくれた。

 優牙は彼女への想いを、雪の絵に封じ込めた。

 そしてまた明日を生きる。

 一歩一歩進んでいく。

 想いを胸に。

 描き続けるんだ。

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