後編「雨よ降れ」

あれから、一ヵ月も雨は降っていない。

リゼリアが恋しい。これまでこれほど、晴れの日が恨めしかったことはない。

あの日のことが、忘れられない。雨の日に交わした約束、私の妻になりたいと。


そう言ってくれた。リゼリアの切なげな微笑みが、脳裏に焼き付いている。

「リゼリアは今、どうしているだろうか……?」

私は、庭園を散歩しながら青く澄み切った空を見上げた。


遥か、遠くから人影が見えた気がした。

その人影が、徐々に大きくなって近づいてくる。


その姿をはっきりと、確認出来た時、私の雲った顔が明るくなった。

その人物は、私の待ち人リゼリアだった。


「セレットさまあ~!!」

「リゼリア!!」


私の腕の中に飛び込んできた、リゼリアを受け止め、優しく強く抱きしめる。

私達は、しばらく抱きしめ合っていた。


「ずっと、貴方にお逢いしたかった。この一ヵ月、気が狂いそうでした」

「私もだよ。しかし、今日も晴れの日だ。掟の方は、平気なのか?」


私が心配して聞くと、リゼリアは少しうつむき、切なそうな表情をしたが。

顔を上げて、私の方を見た。


「わたくし……。雨の国から追放されて親からも、勘当されてしまいました。もう一つの掟の“雨の国の住人は、地上の者と結ばれてはならない”と言う掟を破って。貴方に恋をしてしまったから。」

「何てことだ。私のせいで……。」


私は首を横に振り、彼女を見つめる。

「いいえ、あの日、貴方に出逢うのは、運命だったのです。こうなって良かったのですわ」リゼリアは、私の手を握ってそう言ってくれたが。


リゼリアの顔がすぐに曇った。

「わたくしは、もう、公女でもありませんし、普通の女性になってしまいました。こんなわたくしでも、セレットさまは妻にしてくださるでしょうか?」


私は、何度もうなずき、リゼリアの手を握り返した。

「私は、そのままの貴女を愛しているのです。公女でも、雨の国の住人でもない貴女を。リゼリア=レイン。もう一度、伝えます。貴女を私の妃にしたい。どうか、私の妃になってください」


私は、リゼリアにひざまずき、右手の甲に口づけをした。

「はいっ、セレットさま。喜んでお受けいたします!」

リゼリアは、涙を流し、愛らしい笑顔で、私に微笑んでうなずいてくれた。



◇ ◇ ◇


それから、私とリゼリアは婚約し、国を挙げての結婚の儀を執り行った。

リゼリアのヴェールと純白のウェディングドレス姿が眩しい。


その日は、あいにくの雨だったが。私達は幸せだった。

私とリゼリアは、皆の前で、誓いの口づけをした。


雨が降る中、大勢の国民に紛れて、フードを被った人影が二人、私達を見ていた。

リゼリアが、何かを気づいたようで、ぱあっと明るい笑顔になった。

リゼリアは私の耳元でささやく。


「あのフードの方達は、わたくしのお父様とお母様ですわ。おふたりとも、お越しくださったのですね。」


彼女は、感動のあまりに泣き崩れる。

私はそんな、リゼリアを支えて微笑んだ。


良かった。本当に良かったな。リゼリア。

雨よ降れ。リゼリアとご両親がまた、逢えるように!


そして、この平和な日々よ。永遠であれと。




-了-


🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

最後までお読みいただきありがとうございます。

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雨の国の公女 夢月みつき @ca8000k

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