5.来訪者

「か、帰ってきちゃったけど……なんも考えてない……」


 どうしよう……あのノート……中身を誰かに見られたら……ましてや、アリスさんに見られたらやばい……。

 とりあえず、朝になったらノートを回収して、「天使の絵」をビリビリに引き裂いて、それで……あぁ! そういえば今日金曜日だから明日学校休みじゃん! どうすればいいんだ!


『ピンポーン……』


 私がオドオドしている間に、家の中にチャイムの音が鳴り響く。

 だ、誰だ? まさかこんな時に宗教勧誘? お花売り?

 そんなことを考えつつ、私は急いで応対画面を見た。

 ……そこに映っていたのは……絵のモデルである、アリスさんだった。


「な、なななななななな、なんでアリスさんがここに!?」


 私は思わず大声で叫んでしまった。

 お、落ち着け……落ち着くんだ私……居留守を使おうにも、さっきの教室で私が先に席を立っているので、家にいないとおかしい、ましてや応対するためにドタバタと足音を鳴らしてしまったので、ここで居留守を使ったら泥棒が中にいると思われるかもしれない。

 仕方がない、ここは応対しよう。


「は、はい?」

『あ……タチカワキズナ……サン、私……アリス……デス』

「な、なんでここに?」

『あ、先生ニ……教えてもらいまシタ……あの……忘れ物、届けに来まシタ……』


 わ、忘れ物……まさか……。

 ……お、落ち着け、中身は見られていないはずだ。

 それにあのノートと確定したわけではない、何かの提出物かもしれない。

 私はそう考えつつ、玄関へと向かった。


 玄関を開けると……アリスさんは……「天使の絵が描かれていたノート」を大事そうに抱え込んでいた。

 やばい……。


「あ、あの……忘れ物……」


 アリスさんは、ノートを差し出した。

 私は咄嗟に、それを取り上げるように奪い取った。

 い、いけない……いくら恥ずかしいからと言ってぶん取るのはまずい。

 アリスさんも私を困惑した表情で見ている……と、とりあえず礼を言おう。


「あ……えっと……ありがとう」

「ハイ……あの……」

「何?」

「そのノート……中身……見ました、最初かラ……最後マデ」

「さ、最初から……最後まで?」

「……ハイ」

「……」


 終わった……私の人生……。


「ご、ごめんなさい!!!!!!!」


 私はこれ以上ないくらい大声で、地面に手をついて謝った。


「あ、あの……どうしましたカ?」

「その……気持ち悪かったでしょ? それに描かれてる絵……」

「き、キモチワルイ?」


 顔は見えないが、声からして、アリスさんは困惑しているようだった。

 ……あれ?


「こ、これに描かれテル絵……very excitingデシタ!」

「……え?」


 私は予想外の反応に、顔を上げてしまった。

 ど、どういうことだ? 私の絵が……べりーえきさいてぃんぐ?


「と、とりあえず、家に上がって!」


 私は詳しく話を聞きたくなり、彼女を家に入れた。

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