2.転校生

「ふふ……ふふふ……」


 朝、教室でスマホを見ると、いつものようにたくさんの反響を貰っていた。

 「かわいそうはかわいい」「もっとボロボロにしたい」「再起不能にして養いたい」……そんな反響が。


 私は笑いをこらえつつ、スマホを眺める

 私はいるようでいない存在……女子グループからは冷ややかな目で見られ、男子グループからはそっぽを向かれる。

 これでいいんだ、誰も私になんか近づかなきゃいい、私になんか……。


「はい、皆席についてー! 今日は皆さんに大切なお話があります」


 担任の教師が扉を開け、そんなことを言ってきた。

 辺りは会話を切り上げ、各々席に着いた。


「今日は何と、はるばるオーストラリアから転校生がやってきましたー、皆仲良くしてやってくれ、では、入って!」


 担任が扉に向かって誰かを呼ぶ。

 扉がゆっくりと開き……「転校生」とやらが入ってきた。


「わぁ……」

「……かわいい」

「天使みたい……」


 入室してきた「転校生」の姿に、クラス中が騒がしくなった。

 金髪のロングヘア、雪のように白い肌、透き通った目の女の子、背はクラスの男子と同じくらいで、女子にしては高身長だった。


「は、はじめましテ、『豊田とよだアリス』と言いまス、アリスと呼んでくだサイ……お父サンが日本人でお母サンがオーストラリア人……よろしくお願いしまス」


 ……転校生、豊田さんはたどたどしい日本語で自己紹介をする。

 その姿を見たクラスの女子は、愛玩動物を見たかのような表情を浮かべていた。

 ……「かわいい」とかなんとか言いながら。

 確かにかわいいとは思うが、頑張って自己紹介をした彼女に失礼ではないか?


「この通り、豊田さんは日本語があまり上手じゃないからみんなでフォローしてやってくれたまえ、じゃあ豊田さん、君はあそこの立川……眼鏡を掛けた女の子の後ろの席だ」


 豊田さんは担任の言葉を聞くと、緊張した足取りで、私の後ろの席へと座った。

 ……転校生が私の後ろの席、これは私にとって非常に不都合なことだと、この時は知る由もなかった。



 ……昼休み、各々食事をとり、自由な時間となる。

 自由な時間、クラスの女子たちは、とある人物の元へ一斉に向かう……。


「ねぇねぇアリスさん! アリスさんって何が好きなの?」

「アリスさん! ウチの部活入らない?」

「アリスさん! MINE教えて! MINE!」


 後ろの席、そこでは質問攻めが繰り広げられていた。

 後ろをチラ見すると、アリスさんの表情は……少しだけ辛そうに見えた。

 ……かわいそうに、まぁでも外国からの転校生かつ、本人がかわいい属性持ってればそりゃこうなるか。


 ……にしても、こうも集まられるとこっちも困る。

 絵を描きたいのにソーシャルディスタンスの欠片も無い人たちのせいでノートも開けない。

 ……一人になれる場所、どこかな? トイレは流石に嫌だな。

 うーんしょうがない、ここは適当に徘徊して居場所を探そう。

 私は席を立ち、ノートを追って教室に出た。

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