3.天使の絵

「……ふぅ、ここなら誰もいない」


 校舎の屋上手前の階段、ここに来るのは、エアコンの点検の人ぐらいだろう。

 10年20年前のゲームだと、屋上に出ることができるようだが、現実はそうではない、まぁ簡単に出ることができてしまったら、万が一事故があった時に大変だからね。

 そんなくだらない事を考えつつ、私はノートを広げる。


 まだ途中だった「細菌のようなものに体を侵食されてしまい、苦しんでいるアンドロイドの少女」を形成していった。


 私の頭の中にある設定では、彼女は最新鋭のアンドロイドで、人々の笑顔にさせるために日々奮闘していったのだが、ある日コンピューターウイルスに侵されてしまい、自我が徐々に失っていく……という感じなのだ。


 苦しみつつも、人々の幸せを願うアンドロイド、しかしウイルスはそんなことお構いなしに彼女の体を蝕み続ける……この悲壮感が堪らない。

 私はウイルスになりたいのか、はたまたそれを観察する第三者になりたいのか……よくわからないが、興奮するのには変わらない。

 少なくとも、彼女にはなりたくない、傷つく様を見ていたいかな。

 ……こんなんだから、誰ともかかわりたくないんだ。

 まぁいい、今は絵の時間……引き続き、傷つく少女を形成していった


「ふふふ……」


 自然と気味の悪い笑顔がでてしまったが、私はそれを気にせず描き続ける。

 アンドロイドは苦しそうな顔をしているというのに、私はそれを嘲笑うように物語を描き続けていた。


 ……そういえばあの転校生、いい顔してたな。

 あの苦しそうな顔……なんだか堪らない。

 私は手が止まってしまい、あの転校生の事を考え始めた。


 彼女は集団の圧に負けてしまい、どうすればいいのかわからず、あんな辛そうな顔をしていた……のかもしれない。

 日本人離れした見た目の白い肌の少女、それを追い詰める自分とは違う民族の集団……まるで、悪魔に追い詰められた天使のようだ。

 なんだろうか……私の妄想が止まらない。

 悪魔に追い詰められた天使……なんか、そそられる。


「……描いてみるか」


 私はページを改め、白い壁画に形を刻んでいった。

 それは段々と、行き止まりまで追い詰められ、命乞いをする羽の生えた少女のようになっていった。

 そして、その少女は段々と傷だらけになっていき、翼ももはや飛べないレベルに痛めつけられていた。

 気が付くと、まだ下書き段階ながら、どういう絵なのか丸わかりだった。


「できた……けど、ちょっとこれはな……」


 ……ボロボロの天使、それはどう見ても……あの転校生、「豊田アリス」だった。


「い、いけないいけない! いくらなんでも実在の人物はヤバいって!」


 私は思わずノートを閉じ、我に返った。

 恥ずかしい絵を描いている私だが、これはその中でもトップクラスに恥ずかしい!


「い、今すぐ、ページを破らなきゃ……そして……」


 私は先ほどのページを開き、ページを掴んで破って捨てようとした……が。


「い、いけない……」


 昼休みの終了を伝えるチャイムが鳴り、私は思わずページを掴んでいた手が緩み、立ち上がった。

 ……ページを破るのは後でにしよう、今はとりあえず授業だ。

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