リョナラーと天使様

立風館幻夢

1.立川絆と言う少女

 お昼、皆が楽しく食事をとる中、私こと「立川絆たちかわきずな」は1人、淡々と食を進めている。

 食事を食べ終えた私は、すべてのページが真っ白なノートを取り出し、絵を描き始めた。

 今日描く絵は決まっている、と言うよりかは、最初からテーマ自体は決まっていた。


(えへへ……美しいな、綺麗だな)


 最初は曲線でしかなかったものが次第に人の形へとなっていった。

 本当に、我ながら美しく見える。

 美しく、そしてかわいい、私は美術館で展示されている彫刻のような少女を作り上げた。

 その彫刻はまるで命乞いをしているような体制で、かわいい服を身に纏っている、私と同じくらいの年齢の女の子だった。

 後は……。


(ふふ……ふふふ……)


 私は持っていたペンを握りしめ……その彫刻を傷つけて行った。

 顔に、体に、服に……

 傷ついていき、哀れな姿になっていく……そんな姿を見て、私は思わず笑顔が止まらなかった。


 次のページには、西洋の有名な画家が描いたような少女が、電線のようなものに絡まり、その電線から発せられる力に圧倒され、もだえ苦しむ絵。

 前のページには、眼鏡を掛けたスーツ姿の女性が、血まみれでボロボロになりながらも、刀を持って何かに立ち向かう姿を描いた絵。


 ……そうだ、私は……「リョナラー」なのだ。



 私がそれに興味を持ったのは、数年……小学校高学年の頃だ。

 その時、偶然観ていた女児向け番組……そこで描かれていた展開に私は釘付けになった。


 可憐な服を身に纏った女の子が、気色の悪い怪物に目掛けて拳を振る。

 しかし、怪物の力に圧倒されてしまい、女の子は身も心もボロボロに……それでも、彼女は立ち上がる。

 私は不思議で仕方がなかった、「なぜそんな状態でもなお、立ち上がろうとするのか」

 歳も私と変わらない、彼女も日常では、普通の女の子として過ごしているはずだ。


 何故だ……何故なんだ。


 この疑問の答えを記してくれる人は、残念ながら、私の周りにはいなかった。

 両親はいつも仕事で家にいない、兄弟姉妹もいない、友達もいない。

 教師に相談しようにも、きっと「なんて馬鹿げた質問をするんだ」と返されるだろう。

 私は疑問を解消しようとそのアニメを観続けた……が、あまりに残額な内容だったからか、放送打ち切りとなってしまった。


 何故だ……何故なんだ。


 疑問が解消されないまま、アニメが終わった。

 私の心の中には、建設途中のトンネルのような穴が開いてしまった。

 誰か、誰か教えて欲しい……私はそんなことを考えながら、スマホで検索を掛けた。

 ……そして、私は見てしまったのだ。


 打ち切りになったアニメ……それのファンアートが投稿されているサイトに辿り着いた。

 そこで見たものに、私は衝撃を受けた。

 もがき苦しむ女の子、傷ついた女の子、痛みから解放されるも力尽きてしまった女の子。

 そんな女の子たちが、たくさん表示されたのだ。

 私はそれを見て……どういうわけか、「そそられてしまった」


 傷ついた女の子……なんて美しいのだろう。

 決して綺麗な状態ではない、だが、その姿が美しく見えた。

 何枚かそういう絵を見た私は、いつしか自分でも描くようになった。


 最初は鉛筆で描いた。

 絵が完成すると、飛び上がるほど嬉しかった。

 私が思い描いた……傷ついた少女、それが目の前にいる。

 この思いを沢山知って欲しい……中学に上がった私は、お小遣いを貯め、ペンタブを購入し、親のパソコンで絵を描き、ネットで投稿を始めた。


 ……ネットで投稿を始め、しばらく経つと、「美しい」「汚いは綺麗」「歴戦の猛者みたいでかっこいい」……など、たくさんの反響を貰った。

 嬉しさのあまり、私は傷ついた少女を生み出し続けた……。


 中学時代は、「こんな絵を描いていたらきっといじめられる」と考えていたため、そそくさと隠れながら絵を描いていた。

 絵を描いていくうちに、こんなことも考えた……「もしかしたら、私は誰かを傷つけてしまい、この絵の女の子のような人をリアルで作り出してしまうかもしれない」と。

 だから、高校に上がっても、極力一人でいるようにした。

 流石に高校生にもなると各々空気を読めるようになり、私は「いるようでいない存在」になることができた。

 私にとって……それは心地よかった。

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