最終話ダブルデート

「今度の週末、ダブルデートに行こうな」

「行こうよ〜」

 俺と姫乃が教室で話をしているところに真幸と夢野がやって来て、唐突にそう言った。


「なっ!?

 それは……いいのか?」

「なにかおかしいか?」

「おかしくはないな……」


 かつて、その裏で行われた裏切りのキスを真幸は知らないし、それは俺たちがずっと抱えるべき罪だ。


 俺と姫乃が同時に罪悪感の痛みを抑えるような表情をしてしまったが、それに向き合った真幸と夢野は逆にフッと微笑む。


 そして真幸が俺の肩を軽く叩く。

「これが本来、だろ?」


 そうなのだ。

 これは真幸たちからのやり直しの提案なのだ。

 俺と姫乃は言葉もなく頭を下げる。




 秋の穏やかな日の週末で遊園地は賑わっていた。

 俺たちは人気のアトラクションで2時間待ちの列に互いの組み合わせで並ぶ。


「やばい、彼女とデートとか泣ける」

「私も……」

「さすがに外ではキスできないけど。

 あのときはほら、もう感情が爆発してたから」


 そっと手を握り、俺も姫乃も顔が赤くなると同時に胸に温かいものを感じた。

 そうしているとアトラクションの列はあっという間に進み、俺たちの番になった。

「結構早かった気がするな」

「そうだね、1時間も並んでない気がするね」


 俺と姫乃がそう言うと、後ろで並んでいた真幸がゲンナリした顔で。

「2時間15分……、1時間どころじゃねぇぞ?」

 その言葉に俺と姫乃は同時に目を丸くしてしまった。

 時間感覚とはアテにならないもののようだ。


 昼前なので食事に行こうと移動中、あの遊歩道を通る。

 アトラクションから外れているせいで、この日も人の姿はない。


 真幸と夢野、俺と姫乃に別れて遊歩道を進む。

 ふと……あの日の口付けを交わしてしまった場所に辿り着き、2人して苦笑いを浮かべる。


 そして、キスの代わりか。

 姫乃に俺の指をくわえられる。

 姫乃はそれから自分の口から俺の指をスポンと抜き取り、そのままその指を今度は俺の口に突っ込む。


 また俺の口から抜いたその指をバクッとくわえて口で味わう。

 それで一言。

「……ご馳走様」


 そんなことをしながら姫乃は赤い顔でじっと俺を見つめる。

「……そんなに誘惑するな」

「……誘惑してない」

 俺は触れるような口付けを姫乃の耳元に。

「う〜!」

 赤い顔で耳を触りながら姫乃は唸りながら、ぽこぽこと俺を叩いた。


「おまえら……」

「ヒメ、川野君。

 場所考えようね?」


「「あっ」」

 真幸と夢野が一緒だったのを忘れていた……。



 遊園地の出口で真幸たちと別れ、俺たちは真っ直ぐ家に帰る。

 2人で同じ家に。


 玄関に入るなり、俺たちは情熱的に口を重ねる。

 

「また止まらない〜」

「うん、止める気ないからな」

 そう言って唇を重ねながら2人でベッドに倒れ込む。

 心を重ね、さらに重ねた身体はどうしようもないほどの幸福感に包まれた。


「やばい、愛している恭平くんと繋がっちゃった、やばい……」

 布団にくるまり姫乃はそんなふうに悶えるので、俺は優しく彼女の髪にキスを落とす。

 愛する人と魂が重なり合った感覚。

 それは行為中の快楽を凌駕する。


 人は快楽に簡単に流されてしまう。

 寝取り浮気に代表される背徳の快楽は、その瞬間、全てがどうでもいいと思えるほどに脳を焼き尽くすものかもしれない。


 それでも。


 大切な人の心を受け取り、その愛を感じることはその快楽とは比べものにならないほどの幸福を与える。


 ただ一度。

 ただ一度でも裏切ればそれは心から永遠に失われる。

 だから、大切にしたいし大切にしてほしいと思う。


 永遠の愛はないと言ってしまう人は、そうやってそれを永遠に失ってしまった人なのかもしれない。


 心を受け取るということは、相手の魂を心臓を受け取ること。

 それを裏切るということは、相手の心を殺すことに他ならない。


 それは相手と繋がった自分の心も殺すことになる。

 そんな儚くも大切な愛だからこそ、俺は守り続けていきたいと、そう思う。


「恭平くん、裏切ったら一緒に死のうね?

 私が裏切ることはないと断言するけど、どちらが裏切ったとしても」


 その宣言を嬉しいと思うのは、俺と姫乃も歪んでいると言えるのかもしれない。

 それでも、それでいいと思う。


 それが欲しくて、それを渇望し続けた俺たちなのだから、それを死ぬまで……死んでからも貫き通したい、そう願うから。

「ああ、愛してるよ」

「うん、私も。

 愛してるよ、恭平くん」


 そうして俺たちは何度も口を重ねる。

 魂が繋がってしまうほどに。

 愛し合うのだ。







 ……4年後。


「大丈夫か、姫乃?

 道中、急に激しく走ったりするなよ?」

「大丈夫だよ、恭平くん。

 激しい運動はダメだけど、まったく動かないのも良くないんだよ」

 妊娠3か月の姫乃と、姫乃の実家に結婚の挨拶に向かうために玄関で靴を履いているところだ。


 大学を卒業して働き出したことを機に籍を入れる……予定だったが、籍自体はすでに大学3年のときに我慢できずに入れてしまっている。


 なので俺と姫乃はとっくに夫婦となっている。

 今回は妊娠がわかったのでその報告だ。

 まだ流石に男か女かはわからないが、どちらでも大切な我が子だ。


「ふふふ、心配症なパパですねぇ〜」

 そう言いつつも、まだ姫乃のお腹はそこまで目立ってはいない。

 この姫乃のお腹に俺の子がいる。


 そう思うと、なんともいえない感動が俺の胸に湧き起こり、そっと優しく後ろから姫乃を抱きしめる。


「行くの遅くなっちゃうよ〜……むぐっ」

 後ろから姫乃ともきゅもきゅと口付けをする。

 玄関口で甘い口付けを何度も交わす。

 その甘さはいつまでも飽きることはない。


 そっと姫乃のお腹に触れる。

 まだ動いたりはしないので、温かさだけが伝わる。


「ここに俺の子供がいるんだな」

「そうだよ、恭平くんと私の子供。

 ふふふ、恭平くんとの子供できちゃったね」


 そう言ってまた俺たちは口を重ねる。

 もきゅもきゅ。


 愛は形になり、命は紡がれて、それが引き継がれていく。

 それは罪などではなく温かな愛の繋がりなのだ。


 そうやって生まれていく命が愛し愛され、また次の命へ。

 人とはそういうものであって欲しい。


「愛してるよ、姫乃」

「はい。愛してるよ、恭平くん」





 寝取り浮気の原罪   完

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【完結!】寝取り浮気の原罪〜俺がチャラ男に転生!? 親友の幼馴染彼女と寝取りなのに恋人のような関係で情緒はグチャグチャ〜 パタパタ @patapatasan

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