第48話罪の精算

 夏休みの間、姫乃は毎日俺のところにいた。

 バイトして、勉強して、時々真幸たちとも遊んで、たくさんイチャイチャして……。


 夏が過ぎ、秋になると大学受験となったが、俺と姫乃は早々に同じ大学に指定校の推薦を受けることができた。

 俺に至っては1年間の特待生を受けることができた。

 いや、父のおかげでお金の心配はもうないんだが。


 部屋についてはそのまま暮らしている。

 今は母名義の部屋だが、いずれはおりを見て俺名義に変えてくれるらしい。

 税金が掛かるので、タイミングを見計らってになる。


 妹の香奈恵にも会うことができた。

「お兄ちゃんがこんなイケメンだなんて!

 私に人生における中学までのイケメン兄がいたはずの生活を返せ!」


 ……とよくわからないことを母に主張して困らせていた。

 本気で怒っているわけではない、はずだ。


 その香奈恵だが、真幸の妹の稀李と意気投合して、夏休みの間などはちょくちょく京都から泊まりで遊びに来ているようだ。

 ……夏休みが終わっても来ているが。




 そんな日々の中。

 俺のスマホに知らない番号からの電話があった。

 偶然、それに出た俺は驚きの話を聞かされた。


 父だと思っていた男の妻からの連絡だ。

 奥さんは落ち着いた涼やかな声の人である衝撃の事実を教えてくれた。

「あの人が亡くなったんですか……」


 死亡後の遺産整理をしている中で、戸籍から俺の存在がわかったらしい。

 遺産相続の関係で隠し子であってもわかるようになっていることを知った。


 隠し子であっても戸籍上の子供なので、財産を引き継ぐ権利があるというのだ。

「……いえ、財産放棄させてください。

 俺はあの人からなに一つ引き継ぎたくはありません」

 遺伝子検査であの男の子供ではなかったことも告げた。


 奥さんは少し間を置き。

「……そう、ですか。

 では財産放棄の書類を手続きしますので郵送で送ります。

 私たち夫婦にも子供はできなかったので、これであの人の遺伝子を受け継ぐ人はいなくなったわ」

 あの男と奥さんの間には子供は出来なかったらしい。

 認知しない隠し子がさらにいる可能性がないわけじゃないけど、それでも。


 ざまぁみろ、小さく小さく奥さんが呟いた。

 複雑な想いがあったのは間違いがない。

 あの男がどういう人だったかも、それでわかってしまう。


 お金を持っていたのだろう、顔も良かったのだろう、女を踊らせるテクニックもあったのだろう。

 だがクズだった。


 そのことは母にも伝えた。

 母はただ一言、そう、自業自得ねとだけ。

 そこに情などは一切ないことだけは理解できた。


 それで終わった。

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