Enemy of Security(エネミー オブ セキュリティ)
羽川明
Enemy of Security
──そう遠くは無い未来。
機械によって統治された実質的な独裁国家の中、いつしか人々は、
機械が示した流行を、
人々は、〝自分〟を見失いつつあった。
無人の歩行者天国に、ただ一人、男がいた。
ツンと突き出した前髪の一部をブロンズとでも言うべき錆びた金髪に染め、片耳を垂らしたイヤホンからは自分の曲が流れている。
それは、彼がバンドを組んでいたころに歌った最初で最後の社会風刺ソング。
メンバー全員の反対を押し切り、死に物狂いで
「上から下までトレンド着崩し街を闊歩する
自然と体が
声量を
八方を囲むビルの合間を、舗装された漆黒の海を、くたびれた白のストライプとともに。
「……オススメスポット一極集中。
昔、彼には恋人が居た。
間が悪く、興味関心が他人とずれがちだった彼女を周囲は変人と呼んで
「
ある晩彼が帰宅すると、彼女は浅く水を張った浴槽の中で倒れていた。
『……ねぇ、間違ってたのは、私なの? ──狂っているのは、私なの?』
伸ばされた血だらけの手首を、彼はどうすることもできなかった──
──そうして男は前髪を流行の過ぎた金髪に染め、〝違い〟が異端のように扱われる世界に、それを造り出した
「……ow,
その時、両脇のビルの
『──社会や世界に貢献できるような生き方をオススメします』
映し出された美少女ナビゲーターは次の瞬間
噴き出す二つの黒煙に、ちろちろと青白い電光が走る。
「……
数秒遅れてそこかしこのスピーカーたちが一斉に騒ぎ立て、依然立ち上る爆炎に爆音を添える。
公共物の破壊行為は
鋭くがなる重低音が、神経をさらに逆なでした。
男はもう、引き下がる気など無かった。下ろした二丁の拳銃も、手放すつもりは毛頭ない。
正面に立ちふさがるビルの頭上から文字通り飛んで駆けつけた二機の白いカラスが、照射した緑の
数秒前まで二つの〝点〟でしかなかったそれらは、すぐにその細部が目視できるまでに距離を縮めてきた。
『警戒レベル2:
カブトガニに似た
中でもWhite-crow《ワイト・クロウ》は
男は、駆け出しながら双方の
入れ替わるように
「ぐっ!」
結果として、両手の銃が吹き飛ぶのと二機のカラスが爆散するのはほとんど同時だった。
つま先を上げて急制動をかけると、イヤホンの外した片側が目元まで跳ね上がり、マットブルーのスニーカーから焦げるような匂いが立ち込めた。
──鳴り止まぬサイレンの中に、一際甲高い音が加わったのを男は聞き逃さなかった。
遠くで細々と聞こえていたはずのそれが、唐突にクリアになる。
それは頭に乗せた
そうして壁の
『警戒レベル4:
男は、
「……
──今なら、あの手をつかんでやれるだろうか。
間違っていたのは自分だと、狂っているのは世界だと。
そう、告げられるだろうか?
想いを胸に駆ける。
いつか
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Enemy of Security(エネミー オブ セキュリティ) 羽川明 @zensyu
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