蟻と君とぼくらの夏


 もうすぐ夏休みが始まる。ゆううつな定期テストが終わって、私たちはつかの間の自由を謳歌していた。


「りんちゃあん」


 学校で登校するなり、先に来ていたサイコバニーが大声で私を呼ぶ。


「わすれものお」

「なんか忘れたっけ」

「パン……」

「わかったわかったやめなさい」


 私はサイコバニーから紙袋をひったくって中身を確認した。確かに昨日穿いていったショーツである。


「別にわざわざ持ってこなくたってよかったじゃない」

「ええー?ぼくの服に紛れちゃうよ」

「見つけ次第回収するし」


 あの部屋はなんとかしなければならない。二人の秘密基地とするには、あんまりにも狭いし、何より散らかっていて汚い。


「りんちゃん、今度はカレーかシチュー以外のものが食べたいよ」

「じゃあ今度からコンビニ弁当にする?」

「恐怖政治だ!うわーん!」


 ……そんなことばかり言っていられないので、今度お母さんに時間を作ってレシピでも聞いてみようかな。カレーかシチューは作れるんだから。


「じゃあ何が食べたい?」

「ええと、ぷっちんできるプリン」

「コンビニに行け」


 自分の席につくと、わざわざサイコバニーは移動してきて私の膝の上に座った。


「えいっ」

「重っ」

「りんちゃんのこと潰しちゃった」

 サイコバニーは楽しそうに言う。


「昔、潰された蟻が、仲間の蟻に巣まで運ばれていったの、観察したよね」

「そうだっけ?」

 そんな細かいことまで覚えていない。サイコバニーは私の髪の毛をわしわしつかんだ。

「りんちゃんがそうなったら、ぼくが運んであげるね」


……いや、よくわかんないし。私は仕返しに彼女の細い腰をぎゅうと抱く。潰さんばかりに。

「そう簡単に私が潰されちゃったら、なんだかんだ泣くでしょ、

「……うん、なく。泣いた」


 私のサイコバニーはちょっとサイコで自由で気ままで、そんでとっても可愛い。


 サイコバニーはえへへと笑った。

「照れんね」




 了

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ロッキンベイベ、ロリポップ・サイコ・バニー 紫陽_凛 @syw_rin

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