ハイリスク・ハイリターン?

 五月中下旬、日曜日午後のニュースにて。


 *


(アナウンサー)

 X市教育委員会は同市の市立高校の男性教諭が女子生徒と不適切な関係になったことを明らかにしました。

 教育委員会によると男性教諭は十七歳の女子生徒から好意を告げられ、断りきれず複数回に渡り私生活で交流したと発表しました。

 また、教諭は女子生徒側からキスを求められ、断りきれずに応じたとのことです。

 教育委員会は男性教諭に停職三ヶ月の懲戒処分を言い渡しました。

(教育委員会職員が謝罪する映像)


 *


「これってヤバいんですか?」


「……あぁ、マジでやべえよ、これ」


 日曜日の昼、俺のアパートの部屋に流れたニュースを見て感想を漏らす。


 オムライスをスプーンで崩しながらパクつく五十嵐は他人事っぽく呟く。一方の俺は食欲が一気に失せるくらいの寒気を感じた。


「てーしょく、ってなんですか?」


「読んで字のごとく、『仕事するな』っていう処分だよ」


「へぇ、じゃあこの先生は三ヶ月もお休みなんですね! 私そんなに長いお休みもらったことないです!」


「おバカ、お休みじゃないっつーの! 懲戒、制裁、罰! 『女子校生とキスしやがってこの変態教師が!』って社会からガチギレされてるんだよ!」


 ことの重大さの分かっていない五十嵐凪音に俺は端的に説明した。


 懲戒は職務規定を違反したものに課せられる制裁で、停職というのは一時的に仕事場から追い出されることを意味する。もちろんその期間給料はなし。貯金を切り崩して生き延びるしかない。


「ふーん、キスの代償はお金かー。なんか高いお金払ってキスさせたみたいで女の子が可哀想」


「そういう問題じゃないだろ? 第一、懲戒なったらお金じゃ買えない信用を失うんだ。それくらい重大なんだよ」


「でも、この先生は女の子の方から求められてキスしたんですよね? それでも罰せられるんですか?」


「そりゃ、先生の側にはそれを断る義務があるからな。『俺達は先生と生徒だから恋人にはなれないよ』って」


 そう、教師が教え子に手をつけるなど言語道断。相手はまだ未成年で分別のつかない年頃だ。そんな年端もゆかない子供と恋をするなんて許されない。生徒が恋をするのは止められないが、その線引きをして世の中の決まりを教えるのも教師の役目なのだ。


「へー。じゃあ、私と先生もちょっとやばいですか?」


 きょとんと小首を傾げて尋ねてくる五十嵐。小動物っぽくて可愛い。

 可愛いがほっこりしてはいけない。

 俺の背中にはにわかに汗が吹き出し、滝のように流れ落ちた。


「あれあれー、もしかしてちょっとじゃなくて結構やばい感じです?」


 俺の引きつる顔をまじまじ眺め、五十嵐はニコーっとご満悦の表情を浮かべた。さっきまでは清楚な白い百合のような佇まいだったのに、今は闇のような黒百合に見える。


 俺、能登数彦は二十七歳の男性教師。現在独身のアラサー。

 対する彼女、五十嵐凪音は十六歳の女子高生。法律で守られている未成年。

 二人の関係は担任の先生と生徒だよ♡


 そんな二人が日曜のお昼から自宅アパートでご飯食べてても平気かって?

 平気なわけがない!


 五十嵐とは淫行は言うに及ばず、キスもしていない。が、そもそも教師と生徒がプライベートで交流を持つことが問題なのだ。今日はご飯を作ってもらっただけだが、一人暮らしの男の家に少女が上がり込むことも感心しない。教師の俺は止める立場なのに、むしろ連れ込む側になっている。

 バレれば懲戒処分は必至だ。


「うふふ、まぁ、私達は大丈夫ですよね? だってですもん! 二人の絆は法律じゃ引き裂けませんもんね?」


 五十嵐はニコニコ笑顔でどこまでもメルヘン思考を披露する。演技ではなく、本気でその理屈が通用すると思っているあたり、まだまだお子様だ。

 もっとも、分別を欠いてこの子とランチしている俺はもっと低レベルなのだが。


 とはいえ、やはりことの重大さは認識させておかないと。うっかりこの子が口を滑らせたら能登先生学校にいられなくなっちゃうからね。


「あのなぁ、五十嵐――」


「そうですよね、センセイ?」


 俺の言葉を遮る伶俐な声。三日月のような細い瞳と口角を釣り上げた妖艶な微笑みは俺をすくみ上がらせる。


 見誤っていた。

 五十嵐は理解している。


 俺達の関係が社会では決して許されないものだと。

 例えキスも性交渉もしなくても、俺達は同じくらい危険なことをしてしまった。それこそ、俺が社会的に抹殺されるくらい危険なことを、だ。


 そして俺は勘違いしていた。

 五十嵐は共犯者だが同時に俺の弱みを知り、生殺与奪の権利を握る側でもある。


「えっと……このまま何事もなく卒業できれば……ね?」


「うふふ、センセイ、愛してますよ」


 俺の返事は曖昧で保身に走るようなひどい答えだ。だが五十嵐はそれで満足らしく、再びオムライスを食べ始めた。


 また一つ、弱みを握られたな。バレなきゃいいだなんて考え、人として間違っている。

 だが俺はこの関係をやめられない。


 教え子の五十嵐凪音に日曜日限定で通い妻してもらっている。


 そしてある条件つきで結婚に関する約束をしている。


 教え子とこんな関係になるなんて、俺はとんでもないダメ教師だ。

 とほほ……。


†――――――――――――――†

 ご無沙汰しております!

 紅ワインです!


 新作の執筆などありますが、SSを書いてみたので投稿しました!

 今後も不定期で投稿します!


 🚩お知らせになりますが、新作を投稿しました!


「お前クビ」デビュー直前にバンド🎸を追放されて彼女も寝取られた俺は一人寂しく弾き語りするつもりが何故かS級女子達に囲まれてます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330662545387095/episodes/16817330662580580639


 新作ともども拙著をよろしくお願いします。

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女子校教師俺、S級美少女の教え子に弱みを握られダメ教師にされる 紅ワイン🍷 @junpei_hojo

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