第11話 まなの初舞台
エントリー料だって、決して今の我が家には、(次の亮ちゃんのお給料までは、お金なし)安くないし、戻っては来ない!!
こうなりゃ、私が歌ってみましょうか。
幸運なことに、亮ちゃんて市内では、歌うまで通ってるらしくて、歌う順番が後のことが多いの。
でも、今回は、大会も企画されてたからか、57番と比較的前のほうだった。
私は、昔から嫌なことや、嫌いなことは早めに終わらせたい質だった。
だから、願ったりの番号なの。
でも、本当はもっと早い方が良かった……(本音)
歌は初めは悲惨なものだった。
キーを上げても上手く歌えなくて……
結局、亮ちゃんは、プラス二以上はあげちゃ駄目だって言ったのを三まで上げて、歌うことにしたの。
マスターには、亮ちゃんの仕事の都合で、歌う人の変更は可能か電話で聞いてみた。
幸か不幸か、由利さんの所属する会の大会だったみたい。
歌う人の変更は、認める、キーの変更も認める、だが、歌の変更は認められないとの返事だった。
予想の範囲内だった。
わたしは、もう、小金沢昇治さんの『願・一条戻り橋』を練習し始めてたの。
低い音がなかなか出なくて、これ以上上げるのは、亮ちゃんからストップがかかった。でもメロディーは好きで、良く口ずさんでたの。
亮ちゃんも、良く歌う歌だったから。
口ずさむと、カラオケで歌うって、こんなに違ったのね~~
一から、亮ちゃんに歌い方の特訓してもらった。
伴奏を聞いたくらいのタイミングで、歌い出すと丁度良いらしいんだ、私の場合。早く終わらせようとして、焦って歌うから。
万全の仕上がりではなかったけど、一カ月自分なりに頑張った。
▲▽▲
今日は、亮ちゃんの仕事の日、私は一人でバスに乗って会場へ行った。
本番デビューの時(
でも今日は、あくまで亮ちゃんの代理。
普通の私服で向かった。
そして、舞台へ……
スポットライトが眩しくて、観客席が見えなかったのが良かったな。
大して上がらずに、歌えたもの……
……といっても、歌い終わって、由利さんの顔を見た途端、腰が抜けそうになった。
「まな、初めてであれだけ歌えれば上等!」
「由利さん、本当?」
今一つ自信が無かったけど、由利さんの言葉を信じたい。
私は、この大会の運営に携わってる由利さんに別れを告げて、観客席に戻ると、なんと亮ちゃんの姿が!!
「どうして? 今日は一日接待じゃなかったの?」
「上役が気を利かせてくれた。新人に日曜出勤させるほど、うちの会社は困ってないそうだ。社長の出迎えと挨拶だけで帰らせてくれたんだ」
「その人、出世しそうね?」
「してるよ。専務だもの」
なんて会話してたけど、亮ちゃんは私の歌は聞いてないんだって。
周囲の人にはビックリされてたみたいだけど。亮ちゃんの番の時に知らない女が歌ってるんだモン。
嬉しかったこと
帰りの車の中で、ラジオから鬼束ちひろさんの『月光』が流れた。
緩やかなメローディーと細い声、本当に歌が歌えるようになったら、歌いたい。だから亮ちゃんに言った。
「『月光』は、私の歌の頂点なの」
「頂点?」
「ん……つまり、最終目標よ!!」
「最終目的って……」
亮ちゃんは、怪訝そうに私を見てきた。
「私じゃ、無理……?」
声を落として言う。
「じゃなくて、『月光』なら通過地点だ。まなならもっと上に行ける」
「だって、私の声は低いよ。あんなに綺麗な高音は出ないよ?」
「そう思ってるのはまなだけ。まなの中音と高音は、とっても細くて響きがあるんだ」
私はそれを聞いただけで舞い上がってしまった。
『月光』は通過点、『月光』が通過点ですって!!
一年半前まで人が怖くて、消えたかった私。
でも、新しい目標が出来て、仲間も出来た。
日中も昔、考えてたお話を少しずつまとめて、サイトに挙げる楽しみも見つけて……
会う人会う人に、元気になったねと言われてしまう。
自分はどこも変ったつもりはないけれど、ある人に尋ねてみたの。
「私どこがかわりました?」
「自分から、寄って来るなオーラ出してたの自覚してないんだ」
だって。
かもしれない。
一時は人が怖かったし、亮ちゃんの後ろにずっと隠れていたし。
それが、少しずつ少しずつ、人前に出れる様になっていったんだね。
亮ちゃんには感謝しかない。
さて次は、
ドレスを着て歌うのは恥ずかしいから、はっぴを貸してとマスターに言ったら、「着れるのか?」ですって!!
会には力士みたいな
護るちゃんがはっぴを着て歌ってる写真は見てますよー。
向日葵をマイクに持ち替えて/コミュ障主婦のカラオケ修行 月杜円香 @erisax
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