潜脳蟲

木古おうみ

断片.1

 私、まともに仕事続けられないんですよ。ちょっと病気があるから。


 学生の頃からそうでした。

 協調性がないと言えばそれまでなんですけど、他人と同じ感情を共有できないっていうか。


 高校の頃、入っていた美術部でコンクールがあって。全員で頑張ったんですが、結局二位止まりで大賞は獲れなかったんです。

 みんな悲しんだり、大賞の作品の悪口言って怒ったんですが、私にはよくわからなくて。

 騒いでも順位が変わるわけじゃないし、今回の失敗を活かして次頑張ればいいのにって思って。そうしたら、部活で浮いちゃって。そういうことがよくありました。


 あと、昔から何か変なものを見ることが多くて。まあ、この話はいいです。


 そんな感じで、新卒で入社した会社も長続きしなくて、今は殆どフリーでグラフィックデザインとかをして生計を立ててます。

 ただ、それもどうしようかなと。


 今、イラストを作れるAIがあるじゃないですか。

 著作権の問題とかグレーなところは多いですが。

 発注元が法律でとやかく言われる前にやれることやっちまえってことで、私も言われるがままにAIに学習させて、風景画を作ってゲームの背景として売ったりしてたんですよ。

 プロ意識のあるひとなら怒るし、嫌がるでしょうけど、私は違いますから。

 悩んでるのは別の理由です。



 AIのイラストって生成を繰り返すうちに少し変なところが出るんです。それを自力で修正するのが私の仕事でした。

 でも、あるときから生成した絵に変なものが入り込むようになったんです。元の絵は無人の草原や雪山なのに、だんだん中央に黒い人影みたいなものが現れるんですよ。

 最初は気にしなかったんですが、生成するたびにそれはまるで近づいてくるように大きくなりました。

 影の輪郭がはっきり見えるようになった頃には怖くなって、発注元に無理言って半ば逃げるように仕事をやめました。



 それから数週間後仕事で使うアドレスに知らないアカウントからメールが来ました。

 アドレスをよく見たら、私がAIに学習させた絵を描いたイラストレーターの名前だったんです。

 訴訟とか賠償とか言われたら嫌だなと思いつつ、開いたら、「もう少しで完成なのに何でやめてしまうんですか」とだけ書かれていました。


 もうアドレスも全部変えて、手描きの仕事しか受けないことにしました。

 今でもあの影を思い出しますよ。私、昔からよく変なものを見ると言ったでしょう。気味悪がられると思いますけど、その幻覚に出てくるものにそっくりだったんです。


 何と言えばいいんでしょう。上手く表現できませんが。蟲、ですかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る