突きが綺麗ですね

 あれから半年。季節は春の終わり。


 生徒会を引退した俺たちは3年生になった。エスカレーター式で学院の大学部に進学する生徒とは違って、俺は外部の国立大学に進学する為、受験勉強に勤しんでいた。

 

 この半年で色んなことがあった。

 元会長と斑鳩氏のメッセージは毎日届き、大富豪ってそんなに暇なのかなと思いつつ、丁寧なツッコミを入れながら返信する日々。


 あとから紹介されたシーノこと、斑鳩いかるが紫乃しの様は、元会長似のお母様。

 はんなり京美人の彼女と連絡先を交換する時も、ぽーちゃんを巻き込んでひと悶着あったが、ここでは語らないでおこう。


『レヽ⊃も了ス」レ・/─⊂ィΦ良<ιτ<れτぁ丶)カゞ─⊂ぅ💕🥰💕』というギャル文字メッセージを貰った時はのけぞったな。マジで暗号かと思った。

 いまではなんとか解読できるようになったから問題ない。意味は『いつもアスルンと仲良くしてくれてありがとう』だ。

 内容の解読は江戸川先生の推理を参考にした。あっという間に事件解決!さすが自分も暗号送るだけのことはある。


 竪穴はあの時麻酔薬で倒れたのがよほど悔しかったのか、「毒にも麻酔にも負けない体を作る」と意気込んでいる。

 世界各地から毒物を取り寄せて少しずつ摂取しているようだが、これ以上人間離れしてどうするつもりなんだろう。

 それに麻酔効かなかったら、手術する時困るんじゃない?


 室町さんは相変わらずで、ときどき暗黒部分をチラチラさせながら、元会長のイメージアップに努めている。

 会長職を退いても「斑鳩飛鳥=高嶺の花」という財閥お嬢様イメージは崩したくないらしい。

 別に完璧じゃなくても充分すごい人だし、ちょっとくらい抜けてる方が人間らしくていいと思うんだけどなあ。


 鎌倉くんは影のように、元会長に付き従う室町さんの後をついて回っている。

 あれ以来、重低音のイケボは聞けていないが、この前渡り廊下で会ったら、室町さんに貰った (らしい) 黒い首輪を着けた首元を嬉しそうに見せてくれた。

 うんうん。後輩が幸せならいいんだ。何も言わぬがフラワーだ。いや、知らぬがブッダだ。記憶ごと消去したい。


 一番変わったのは平安くんかな。クラスが違ってしまったから詳しいことは分からないけど、彼は3年になってから背が伸びたようだ。

 それに伴って痩せ始め、肉に埋もれていた大きな目が現れた彼は正統派の美男子に様変わりし、モテすぎて困っているらしいと風の噂で聞いた。

 元糸目仲間としては少し寂しい……。

 多すぎる告白やデートを断るのに「物忌みで」とか「方違えが」とか言っているのは相変わらずみたいだが?

 

 羅馬くんとはまた同じクラスになり、彼も俺と同じ大学を受験をすると言うので、一緒に受験勉強を頑張っている。

 そう言えば羅馬くんは、普段あれだけ不思議な日本語を大量に話しているのに、メッセージをくれる時だけは言葉が少ない。

 俺への返信にはたいていスタンプだけ。あとは『ま?』とか『り』とか、二文字以上送ってこないんだ。

 そういうもんかな。文字だけじゃ雰囲気で分かんないもんな。


 そして厩戸学院の元生徒会長、斑鳩飛鳥は、今日も俺の隣で豪華なお弁当を食べている。

 桜の花びらが散り敷いた芝生の中庭で、長い髪を耳にかけた元会長が俺に微笑む。

 

「サトルン、今日も図書館で勉強しない?」

「いいですね」


 なんと、そのまま大学部に上がるのかと思っていた彼女は、俺と同じ大学に行くと言い出した。

 俺よりはるかに成績がいいのだから、もっと上を目指せると思うんだけど……と思った俺は、志望校を変更して彼女に合わせることにしたのだ。

 大変だけど、やりがいはある。


 ギリギリギリギリギリギリ。


 ああ、分かってるよ、異形のセミ。もとい、羅馬くん。

 仲良くしてくれて嬉しいよ。でも、たまにちょっといきすぎだよね。

 君も志望校変更したじゃないか。毎日図書館についてくるじゃないか。今だって隣で歯ぎしりしながら一緒に弁当食べてるじゃないか。


 麗らかな春の風を感じながら、腹ごなしの運動と称して格闘技の手合わせをしている竪穴と鎌倉くんを眺める。

 あ、竪穴の正拳突きが綺麗にキマって鎌倉くんが吹っ飛んだ。生け垣めちゃくちゃだけど……生きてる?


「突きが……綺麗ですね」

「え?」


 思わず漏れた俺の呟きを拾い、彼女の白い顔があっという間に耳まで赤く染まる。


 あっ……今のは明治の文豪が翻訳したっていうアレじゃなくて!字が違う!

 釣られて俺の頬も熱くなる。


「あの……ムーンではなく……パンチの方です」

「そう……」


 こういう時に絵と英語ミックス言語を使えば、誤解がなくていいのかもしれないな。

 いや、誤解でもいいんだけど、いまこんな衆人環視の中で伝えたくない。

 背後から室町さんの生温かい眼差しを感じながら、俺と彼女はしばらく赤い顔のまま目の前の大惨事を眺めていた。



 その夜、家に戻った俺は、スマホを取り出し、初めて絵文字を使ったメッセージを送った。


 たとえ返ってきたメッセージがオジサン構文でも、既読スルーはもうしない。

 文字と絵を紐解いてみれば、彼女はいつもあふれんばかりの気持ちを素直に伝えてくれるのだから。


 俺も素直になろう。


『アスルン、月が綺麗ですね💖』


 空には春空に霞む丸い月が浮かび、見上げた俺の顔を柔らかい光が優しく照らしていた。


【完】



◇◇◇◇◇



最後までお付き合いいただきありがとうございました。


全国のエンジェル👼&スイートハート💖たち❗❗💕またどこかで、トゥギャザーしようぜぇ❗❗😘🩷🤣😂🤣😂🤣😂🤣😂🤣

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既読スルーしたい‼️😭高嶺の花🌹の生徒会長様が👑俺🧒にだけオジサン構文📝😘送ってくるんだが⁉️⤵️😱😅 鳥尾巻 @toriokan

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