✴︎エピローグ


 ◾️



 規則的な揺れが眠気を誘う。いつの間にか寝てしまっていた私は上体を起こした。

 全部夢だったら、と願うけれどそんなはずもなく、私の冴えないタブレットには、「降ろされた人」に関するたくさんの通知が来ていて、世界は相変わらず淀んでいた。

 お父さん、お母さん、えみちゃん、明人。

 私の憎くて大切な人たちがいなくなった電車の中で、私は今日も息をしている。

 もう親不孝なんて言われることもない。えみちゃんと比べられて、僻む自分に嫌気が差すこともなくなる。けれど、きっと私はこの先、ある種の「かわいそうな人」として、電車を乗り継いでいかなあかんのやろうな。

 みんなに謝りたかった。許されたかった。それはもう、一生叶うことはない。

 私、なんも持ってないからさ。せめて、私の周りにおる人だけは、奪わんとってほしかったよ。

 電車はどんどん進んでいく。私の意志なんか関係なく、ただただ、真っ直ぐに。時には、分岐しながら。後戻りは二度と許されない。



 ――― 一度きりの人生、誰にも間違いなんて言わせんな。間違ったと思ってるなら、これからのお前が正解にしていけばええだけのことやろ。



「できるかなぁ、ひとりぼっちで」


 途方に暮れる私に、ピコン、とひとつの通知が届く。

 そこには、いつかアンインストールした物語を書くためのアプリがきらりと光っていた。



《完》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひかりの贖罪 夜市川 鞠 @Nemuko3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ