第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部

涼月

水の香と張り付くシャツの宵蛍


 水のと 張り付くシャツの 宵蛍よいぼたる








【蛇足解説】


 本来俳句は、解説しちゃいけないのかもしれない。

 それをすると、読む方の自由を奪うし、自分語りのような居心地の悪さも感じるから。


 でも、ついつい語りたくなってしまうナルシストな私。


 という訳で、開き直って解説します。

 必要ないと思う方はスルーしてくださいね。



 蛍が多く飛ぶ気象条件は、むしむしとした曇りの夜らしい。そんな蛍狩り時の感覚を、思いつくままに詠んだ句。

 

 水の香とは、蛍の住む川の水か。それとも雨の気配か。

 蛍を追うには闇が必要で、その闇の中では、自然と五感が研ぎ澄まされていく。嗅覚こそ、最初に飛び込んでくる情報だ。


 張り付くシャツは触覚。ここだけ俗っぽい表現かなと思ったが、私の体感的には正にこの言葉がドストライクだったのでそのままにした。

 むわりとした空気は、肌に圧を感じる。


 宵蛍が季語。夏だ。こちらは視覚。

 個人的には、『宵』に『酔い』の音も秘めたつもり。

 酒に酔う。恋に酔う、場に酔う等々……


 と、ここまで書いておきながら、『張り付く』がどこにかかるかで、印象が変わるのだろうなぁと思っている。

 『張り付くシャツの宵』なら暑くてムシムシした夜の様。

 『張り付く蛍』なら、シャツにしがみ付いている蛍の様。

 皆さんは、どちらを想像されていたかしら。

 私的にはどちらも感じ取っていただけたら嬉しいと言う気持ちでした。



 この句の背景は、何年も前の記憶。子どもを連れて蛍狩りに行った時のこと。

 蛍の警戒心は案外低くて、木道を歩く人間も単なる休憩場所と思っている様子。髪や服で一休みしていくことに驚いた。

『張り付く蛍』が発する光は想像以上に明るくて目を奪われる。あちらから近づいてくれた喜びも大きい。

 ささやかな幸せをもらった一時ひとときだ。


 だが、言葉が想起させるイメージは一つでは無い。だから、『張り付くシャツ』の響きには別の思惑も込めてみた。


 この場にもし、若いカップルで訪れていたら……


 張り付くシャツにフェロモンを感じるのでは? と妄想する。

 肉感を強調し、香りを放つは異性を誘う常套手段。

 蛍の光も、目的は交尾だ。

 そう気づけば、儚げで幻想的な光が、一気に情熱的に見えてくる不思議。

 ほのぼのシーンが一転艶めく……かもしれない。


 

 こんな事を考えながら捏ねくり回していると、つくづく俳句は難しいと思う。

 言葉の選び方、情景の切り取り方、気持ちの盛り込み方。全てに知識とセンスが必要とされるのだなと。

 正直、丸裸にされるような怖さを感じる。


 言葉足らずと、語り過ぎの間を目指す心もとなさ。

 言葉の持つ背景の多様さと、助詞の使い方一つで立場が変る面白さ。

 

 長文を書く時も、この感度を大切にすれば良いのだと思うが、残念ながら集中力が持たない。安易に置いてしまう言葉の羅列に愕然としつつも、まあ、いっかと開き直るしかないようだ。



 とりあえず、一句のみ投稿。

 もし、何か思いついたら、随時更新予定です。可能性は低いけれど。

 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。


 

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第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部 涼月 @piyotama

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