間違った鬼ごっこ
大隅 スミヲ
間違った鬼ごっこ
鬼ごっこ。
それは日本人であれば、一度はやったことのある遊び。
説明するまでもないが、鬼ごっこは鬼となった人間が鬼では無い人を追いかけてタッチをすれば、鬼が交代するといった遊びだ。
この鬼ごっこは、いつ頃からはじまったものなのだろうか。
そんな興味を抱いた私は、鬼ごっこについて調べてみた。
すると鬼ごっこの起源は、平安時代まで遡ることがわかった。
元々は五穀豊穣を祈るための儀式である『鬼ごと』が起源であるとされている。
平安時代は伝染病に苦しめられた時代でもあった。
疫病。当時は、そのように呼ばれた伝染病。原因は色々とあったようだが、その原因の一つとして風葬という死体処理に問題があったとされている。
風葬、それは亡くなった人を一定の場所に放置するというものだった。
死体は鳥や獣に食べられたり、そのまま朽ちていくのを待つだけであるが、これが死者を自然に返すための手段として扱われていた。
平安京周辺には風葬する場所が3つほど存在していた。
東山の
平安時代では、火葬することを許されていたのは官位三位以上の貴族か天皇といった高い身分の者だけであり、三位以下の貴族と庶民は風葬が当たり前だった。
そのため、死体置き場となっていた3つの場所周辺では、夏場になれば腐敗臭が漂い、疫病も流行した。
そんな平安時代の葬儀事情に、あの弘法大師・空海も天皇に風葬はやめるべきだと進言したほどであった。
風葬が行われていた場所のひとつである鳥辺野の入口辺りは、六道辻と呼ばれる場所である。六道辻は冥府への入口とも言われるいわくつきの場所であり、その周辺では幽霊や鬼が出ると言われていた。
鬼は人を追いかけて、喰らう。鬼に追われた人は必死に逃げなければ、喰われてしまうのだ。
平安貴族たちは、京の都のすぐ側に鬼たちがいることを知っており、その鬼たちから逃げるすべを儀式の中に隠して学んでいた。それが、鬼ごとであった。
鬼の足というのは、獣のように速かったという。ひたひたと裸足で土の上を歩く足音を聞いたら、すぐに逃げなければならなかった。
逃げる人間を見つけた鬼は追いつこうと猛然と追いかけてくる。特にあの鋭い爪の生えた手で引っかかれようものなら、致命傷は逃れられないだろう。
鬼に引っかかれた者は、自らも鬼と化してしまうとも言われていた。
これが鬼にタッチされたら、鬼が交代するという鬼ごっこのルールのもとであると考えられている。平安時代の鬼ごとでは、鬼は交代ではなく鬼に触れられた者は鬼になり、次第に鬼の数は増えていくというものだった。
最後の一人になるまで、鬼ごとは続けられる。ただ、人間も逃げるばかりではない。鬼には苦手な食べ物があった。それは桃だった。桃太郎などの童話でもわかるように、鬼は桃が苦手なたべものなのだ。鬼が桃を苦手とするエピソードに関しては、日本書紀にも書かれている。
それはかの有名な
古来より桃は生命の源という位置づけにあり、黄泉の国から来た鬼たちはその生命力を嫌うという構図が下敷きとなっているのだ。
そのため、鬼ごとにおいても桃という果物が重要な役割となる。鬼に襲われそうになった人は、桃を持っていれば襲われないのである。ただし、桃は一個しかない。最後のひとりが桃を持っていれば人間側の勝ち。その桃を持っていた人が鬼になってしまっていたら鬼側の勝ちというものである。
これが『鬼ごと』であり、江戸時代以降に『鬼ごっこ』と名前を変えてルールも多少の変化が加えられて現代の形になったそうだ。
※
ここまで私の駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
この物語のタイトルは『間違った鬼ごっこ』ということで、ここまで書いてきた話は、十中八九が間違いです。
はい、作り話です。
ただ、本当の話も含めて書いています。何が本当で何が嘘なのか。答え合わせのようなものは、あえてしません。
人を騙すには、話の中に七割本当のこと、残り三割に嘘を入れると相手は信じるという話を聞いたことがあります。
誰が言っていたんだっけな。詐欺師の人だったかな……。
と、いうわけで『間違った鬼ごっこ』はここでおしまいです。
私の書いた物語にお付き合いいただきありがとうございました。
また、別の作品でお目にかかりましょう。
間違った鬼ごっこ 大隅 スミヲ @smee
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