第13話 またファミレスにて
その後、警察を呼び、捜査と死亡解剖が行われることとなった。
現場に居合わせたぼくは当然すべての出来事を報告し、死体が玄関まで動き出したことまでこと細かく伝えた。
死体が動いたという発言を聞いた警察官はみな鼻で笑っていたが、
死体が垂れ流す液体は廊下から玄関先まで残っており、当然自分たちは動かしていなことを供述した。
様々な仮説や検証を行ったが、結局、死体が動いたのは死体から発生するガスが刺激により動いたせいだ……おそらく……。ということで落ち着いた。
ぼくが扉を開けたことでたまっていたガスが移動して、動いたのだろうと。
絶対にそうではない、アレには意志があった……。と、最初はかたくなに思っていたのだが、解剖医に詳細に説明を受けるとそんな気がしてしまう。
ホソカワさんは死体遺棄の罪で警察に連行されていった。彼が殺してしまったのか、それとも事故死や病死してしまったのか……罪悪感からの幻なのか、彼女の死が受け入れられなくてずっと見ないように新婚生活を脳内で楽しんでいたかは今のところはわからない。
何せそれほどに死体の劣化が激しかったのだ。まあ、それはどうでもいい。だってぼくは刑事じゃないし、ぼくの目的は幽霊やあの世の立証なんだから。
後日、アオギリさんにファミレスに呼び出した。警察の調書結果とぼくの今回の事件についての所感を述べ、またあんな事件があればな……と告げたところゴミを見るような目で見られてしまった。
少しは感謝や尊敬の目でぼくを見てほしいものだ。
奥さんの死体が見つかった後から、アオギリさんは家の中での心霊現象がさっぱり収まり、お父さんも酒飲みが少し収まってきたらしいというのに。
腐乱死体に気づかないほど彼女の家も荒れていたが、事件のあとから急に片付けがはかどり、父親と二人で清掃ができたらしい。
だが結局は隣から腐乱死体が出た家だ。彼女の家まで腐乱臭が染みついているため、大家から補助金が出て別のマンションへと引っ越しをしたそうだ。
引っ越しが終わった後からは父親との関係も少し立て直しているらしい。
何せ浮気を疑っていた隣家の住人は気のふれた人間で、何ら無関係であったのだ。
父親もそれで持ち直してきているという。
ただ、母親は依然行方不明であるという。
彼女と同じような能力を持っていたといわれる母親が同様に事件に巻き込まれていないかと心配している。ということを自分が過去目撃した幽霊情報と合わせて相談してくれた。ファミレスで行われる無料カウンセリングだ。
多少はぼくに恩義を感じているのか……まあお金目当てだろうが、ぼくの幽霊話にもこうやってちょくちょく付き合ってくれている。
1つ幽霊をみた話をすればぼくがそれを数千円ほどで買い取っているのだ。
ネタの宝庫である彼女からすれば定期でお金を稼げるいい顧客ってわけだ。
そして医者で独り身のぼくからすれば金より情報なのだ。両得である。
どうやらお金をためて、全国各地に母親を探しに行きたいらしい。彼女の母親らしき人物の目撃情報をインターネットで探したところ、オカルトの噂をする掲示板で
怪しい女の目撃情報が見つかり、それが彼女の母親に似ているらしい。
これはさらに両得ではなかろうか。彼女のあの幽霊を引き寄せる能力、そして癒す力……その力と怪奇現象が解明できれば……幽霊の科学的、医学的証明に一歩近づくかもしれない。
「いやあ~! すごかったね……! ここまでの大事件だと死んだ人の恨み?
ってやつとかもすごいんだろね……興味がわいちゃったよ! ねえ、もっと一緒に調査しない?」
「し、しませんよ……!」
話には付き合ってくれるが、どこかに実際に行くというと拒否されることが多い。
「じゃあ時給1500円払うからさ~」
「えっ! 高い! い、いや……! いいです……」
アオギリさんが物欲しげな顔をしている。そうだろう、この頃の女の子なんて物欲の塊だ。欲しいものがいっぱいだろう……! ふふふ……。
「このぼくが幽霊ぽいものを見ちゃうくらいなんだから。でもたった1件の症例じゃ実証データにはならないし、学会での発表や、本にするときに困るからさ」
だからお願いだよ。お話だけじゃデータに乏しくて現場で見たいんだよね。
と言うと、彼女は揺らいだような表情をする。
「実は……謎の儀式が20年に1回行われる村に行きたいんだけど……! いっしょに行くよね?」
「絶対に! いやです!」
「ってことはアルバイト代をプラスではずめばオッケーてことかな? じゃあ今週日曜日の診療受付が終わった頃に病院の待合室にきてくれ!」
「話を……! 聞け!」
【終】
/////////////////////////////////////////
別エピソードが見たい、などありましたら評価、コメントいただけると嬉しいです!
冴えない精神科医は女子高生と幽霊を見たい 有田よよ @arita5963
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます