第五話 魔導書

魔導書を願い出るためにユーリとサラはヴィクトールの書斎に来てドアにノックした。


コンコン


「お父様、ユーリです」

「入って良い」


ユーリ達が入ってきてヴィクトールは手の書類から視線を上げて切り出した、


「どうした?まさかサラに不満でもあるのか」


と聞いたらサラの体に緊張が走った。


「いえいえいえ、彼女は良くやっています。全くの別の話です」

「それなら良かった、それで?」

「僕も魔導書が欲しいです!」


それを聞いたらヴィクトールが止まって少しして目頭を揉み始めた。


「どいうことだ?」

「お姉様が魔法を使うためにの魔導書を運んでいる所を見かけたので僕も欲しいです」


ヴィクトールが溜息を吐いて三本指を持ち上げた。


「はあぁ。一つ、クララは十歳にして魔導書をもらったばかりだ。二つ、お前が魔法を使えるかどうかまだ分からない。三つ、使えたとしても、魔法が危険でお前はまだ幼過ぎる」


と諭すように言い放った。それでもユーリが尚も食い下がった。


「使えるか分からないなら試したら良いです。それに魔法を使うには魔法陣という物が必要なようで、安全のをだけ貰えればいいです」

「後、僕だけじゃない、サラにも欲しいです」


ユーリがそれを言ったらヴィクトールが目を細めサラを睨みつけた。


「お前が魔導書を頼んだのか」


サラがヴィクトールの睨み付けられて一瞬怯えていたがユーリは即座に間に入って彼女を庇ってきた。


「いえ、お父様、サラに魔導書を与えるは僕の思い付きでした」


それを聞いたらヴィクトールの纏う空気が少し緩くなった。


「そうか。サラ、少し退出しなさい。ユーリと話がある」

「畏まりました」


サラが退出し、ユーリとヴィクトールだけが残っていた。


「ユーリ、一体なにを頼んでいるか解ってる?」

「サラの魔導書のことですか、何か問題がありますか」

「魔法とは貴族の威光の象徴のような物だ。平民にその力を与えるなど反乱になりかねない!」


その時、ユーリは自分が六歳児であるはずことを思い出し、ちょっと自重した方が良いと反省。


「反乱の事やどうしてサラに魔法を教えたらいけないかは解りませんが、僕のように安全のをだけじゃ駄目ですか」


と今度は上目遣い気味に神妙にお願いしてきたユーリ。それでヴィクトールがはっと正気に戻って「六歳児に反乱云々言ってどうする」と反省した。


「そもそも、どうして彼女に魔導書を与えたいのか」

「魔法が便利そうですし、僕の世話をする彼女がそれを使えたら好都合じゃないかなと思いました」


そしたら暫くはヴィクトールが自分の息子をジッと見つめ、真意を測ろうとした。


「良いだろう。二人の魔法才を試すとしよう」

「本当ですか?!ありがとう御座います、お父様!」

「ただし。なにか問題が生じたら対処するのはお前の責任だぞ、分かったか」

「えっ?あっ、は、はい、分かりました」


ユーリは六歳児に自分の行動に責任を取れと言うヴィクトールに驚いていたがこの世界では人の上につく者として、子供に若頃からある程度の自由行動と自己責任を認めるのが貴族の間では比較的普通な事だった。


その後、ヴィクトールが二人を連れて地下室まで降りてきた。

その部屋には窓がなくヴィクトールの魔法が唯一の光源だった。

完全に石造で地下にある事も相まって結構寒く、埃っぽい匂いと時間の流れに半蝕まれた石が部屋は数百年前建築された事示していた。彼方此方にいくつかある石像が通り過ぎる時影を落とし、奥には祭壇のような物もあった。なんだかいかにも儀式用な所でとても不気味だった。

そして歩きながらサラは思わずユーリの袖に取り付く程だった。暗い場所は苦手のようだ。


奥に進みながらヴィクトールが説明していた。


「ここは魔法を使えるかどうかを試す為に初代様に造られた部屋だ」


(おおぉ。。。なにか試練でもあるのか。そりゃあ楽しみだな)


「どうやって試しますか」


そこでヴィクトールが止まって祭壇らしきものを示した。


「これが見えるか。この魔法陣を脳内に視覚化してそこに魔力を注ぐ。それで魔法が発動したら合格」


それを聞いたら、ある感情がユーリの胸に芽生え始めた、それが猛烈な。。。拍子抜けだった。そしてヴィクトールに白目を向きながら言った。


「それじゃあ。。。魔法が使えるかどうかを試す方法とは。。。使ってみると」

「その通り」

「それはどこでも出来るじゃないですか!ここまで来る意味がないじゃないですか!」


と猛烈な突っ込みを入れた。

そして目を逸らしながらヴィクトールが答えた。


「伝統だから仕方がない」


彼だって同じ事を思っていたから。

そしてユーリがはあぁとため息を吐き先に進む事にした。


「まあそれは置いといて。視覚化して魔力を注いだらいいですね。はいっと。


ユーリが魔法陣をじっと見つめながら慣れた様子で視覚化し、魔力を注ぎ始めた。どういう魔法か知らなかったから最初は少しだけ注ごうとしたがそこで予想外な事が起こった。魔力を注ぎ始めた途端流れのコントロールを失い、魔法陣が勝手に魔力を吸い始めた。量はそれ程でもなかったが一瞬パニックしかけるには十分だった。

そして魔法陣が魔力を吸い始めたら祭壇の上に一つのオレンジ色な炎が現れた。

ユーリにとって、魔法はもう使っているのだし、それが予想内だったのでただ満足気な笑みを浮かべていた。

それに対してヴィクトールが苦笑を浮かべていた。自分の息子が魔法を使えるのは嬉しい事だが、今回の事の運び様からして将来には不安だった。

暫くしてユーリが魔法を切りヴィクトールに向かい直った。


「出来ました!これで魔導書がもらえますよね」

「良かろう」

「ありがとう!さあ次はサラの番です」


自分の番がきたが彼女はまだ躊躇していた。


「えっと。。。今更ですけど、本当に宜しいですか。私のような平民が。。。」

「確かに稀ではあるが平民が魔法を使うことが未曾有と言う訳でもない。ユーリもそれを願っているし、投資だと思ってこれから仕事に頑張るように。まあ、まだ使えるかは分からないが」

「お父様もこう言っていますし、ささ、来て」

「。。。畏まりました」


ようやく覚悟を決め、サラが踏み出してユーリの代わりに祭壇の前に立ってきた。


「どうしたら良いですか」

「ただ魔法陣を完全に視覚化して、魔力を注げれば良い」

「どうやって魔力を注ぎますか」

「それはお前が自分でうかがい知るべきだ」

「えっ?」

「使えると使えない人の違いは魔力の注ぎ方を解っているかだ。それが本能的な事故、他人には教えられない。だから自分でうかがい知るべきだ」

「そ、そうですか。。。はい、努力いたします」


それはユーリにも初耳でした、当然のようにしていたので誰も出来る事だと思い込んでいた。

最初は簡単だから教えようかとも思っていたが具体的な方法を上手く言葉に出來ないだと気付いて仕方なく彼女の成功を祈るしか出來なかった。

それでサラが暫く魔法陣をじっと見つめていたら。。。


「あっ」


もう一度、オレンジ色の炎が祭壇の上に出現した。


「できちゃった。。。」

「サラおめでとう!サラも魔法が使えて良かったね!」

「ありがとう御座います、ご主人様」

「それでは、お父様、サラも魔導書がもらえますか」

「良かろう、彼女が許される魔法が役に立つとは思えないけど」

「まあ、それは試しなければ分かりません」

「それもそうか」

「それでその件が片付かれた所で、魔導書についての注意事項。魔導師にとって魔導書は命のようなものだ。許可なく他人の魔導書に触れるのは非常に重い犯罪。後、他人の魔導書を見せてと頼むのは失礼な行為だ」


ヴィクトールがそれを言ったらユーリの肩がビクッとした。


「どうした、ユーリ」

「お姉様の魔導書を見せてと。。。」

「はあぁぁ。。。早速か。まあ、知らなかったから仕方ないがこれから気を付けるんだぞ」

「はい」

「本題に戻って。二人には関係ないだろうが知っておいた方が良い。犯罪者は時に刑罰として魔導書が破壊されや一生魔導書の所有権を剥奪される事がある」


それを聞いてユーリが顔をしかめた。


「厳しいですね」

「ああ、だから道を踏み外さないようにな」

「それじゃ、二人の魔導書を用意して後日に届けさせるから、今日はもう下がって良い」

「分かりました。ありがとう御座います、お父様」

「ありがとう御座います、旦那様」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



二人がユーリの部屋に戻って、サラが先から気になっていたことを訊く事にした。


「本当に宜しかったのですか、ご主人様」

「何がですか」

「その。。。私にも魔導書をお願いすることです。私のような平民が魔法を使うなど、聞いたことが御座いません」

「大丈夫ですよ。便利そうなのは本当ですし、それに。。。」

「それに。。。?」

「魔法を使うのは超楽しそうでそんな大魚を逸したら多分後悔しますよ?だから一緒にそれを楽しみましょう!」


純粋で眩しい笑みを浮かべながらユーリが答えた。

その笑顔を見たら本当に心底から楽しみにしているのが伺える。そしてただその幸せを誰かと分け合いたい事も。



そしてそれにて、ユーリは魔導書の所有許可を与えてもらえた訳です。



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