043 強い魔物だったみたい
「リディア様! 無事か!?」
馬を急停止させ飛び降りてくるガルディンさん。
防具を身につける時間さえ惜しんだのだろう、いつもの平服のままだ。
ただ剣だけは身に付けている。
「ガルディンさん、早かったですね。見ての通り全員無事ですよ」
どういう経緯かはわからないが、一番乗りで彼が来るとは意外だった。
ちゃんと武器を携行してきたということは、魔物が出たことは知っているはず。
逃げた連中から話しを聞いて、駆け付けてくれたのか。
なんとも頼りになる男だ。
「魔物の群れに襲われて第二王女たちだけは命からがら逃げられたと聞いたが……無事で良かった……本当に」
「近くに小屋があって良かったです。魔物も特にここまで来なかったですし」
少し離れたところに雑に積み上げられた魔物の死骸。
30体分以上あり、骨と皮だけになったといっても、まあまあインパクトが強い。
「……あっちにあるのは魔物の死体か。…………なにがあった? この中に心得のある者がいたのか?」
ガルディンさんの視線は二人のメイドを捉えていた。
女性でも紋章士であるならば魔物と戦える。私がそうであるように。
「わ、私たちはずっとそこの小屋で隠れていただけです。だから、外に出たら魔物が死んでいて……なにがなんだか」
「全員、小屋にいたのか?」
「ええ」
「ふぅむ……そうか」
アゴに手をやりながら、魔物のほうへ足を向けるガルディンさん。
私は横に並びながら話しかけた。
「魔物の仲間割れですかね?」
「……その可能性はないな。誰かがここにいたのは間違いない」
死体はすべて一太刀で両断されたものばかりだ。
首を斬り落とされた死体。上半身と下半身とが泣き別れになった死体。袈裟斬りに身体の半分が切り裂かれた死体。
誰が見たって仲間割れには見えないだろう。
「……剣士だな。凄まじい腕だ。鎧ごと一太刀で斬り捨てていやがる」
魔物は外皮が残るが、つまり鎧や剣なんかもそのまま残るということ。
連中はほとんどが武器を持っていたが、それらはそのまま散らばっている。
実はボスが持っていた大鉈だけは「
「……目玉だけ抜かれているな。これも……これも……全部だ」
「凄腕の冒険者でも通りかかったんですかね。確か、目玉は魔力の結晶で価値があるんでしたよね?」
「そうだが、そんな偶然あるわけないだろう。こんなことができるのはギルドでも上位中の上位だけだ。リディア様も誰も見ていないのか?」
「小屋の中で固まって震えていただけなので」
「まあ、こんな魔物の群れを見たんじゃあな。そうなるか」
死骸を検めるガルディンさん。
我ながら、こんなデカい魔物をよく倒せるな……という気持ちになる。
魔物の瞳が赤く輝いている間は、心に闘争心が灯っているから、全然怖くないんだけどねぇ。
「リディア様はこの魔物を知っているか?」
「いえ。豚みたいな顔をしていますね」
「こいつはオークジェネラルだ。大規模なオークの巣に湧くやつでな、一対一では俺でも勝てるかわからん。だが、こいつの死骸にも攻防の跡がない」
「つまり……?」
「これを殺ったやつは、初撃で首を落としているってことだ。考えられん」
下手に攻防できないから、一気に叩いたけど、結果的に異常な感じになってしまったらしい。
まあ、私は小屋で震えていたわけで完全犯罪だけど!(犯罪ではない)
「誰がやったのか見た者は? 本当に誰も心あたりもないのか?」
ガルディンさんの言葉に、全員が首を振る。
まあ、実は外を見ようとする子もいたんだが、私が強引に止めたからなんだけどね。
私が戦っているのを見られるのはマズいので。
「……ガルディンさん、ちょっと」
ガルディンさんを呼んで屈んでもらい耳を寄せる。
実はいい感じの言い訳を考えついていたのだ。
「第一王女を影ながら護る秘密の護衛みたいのがいたのでは?」
「秘密の護衛……?」
「ええ。子どもだけで遠出なんて、王国の王位継承者に対して迂闊すぎるでしょう? 実際、こうして魔物は出たわけですし。でも、凄腕が影ながら護っているのなら別――というわけで」
「ふぅ~む……その可能性はあるかもしれん。王女も妙に落ち着いているしな」
マルグレーテは実際、他の子と比べても肝が太いというか、あまり動じている様子がない。
生来のものだろうが、常に落ち着いていられるのはトップ向きの性質かもしれない。
サンドラは同じ状況になったらギャンギャンうるさそうだし。
「とにかく死者が出なかったのは良かった。お前たちもよく子どもたちを守ったな」
若いメイド達を褒めるガルディンさん。
彼からすれば若いメイドは娘ほどの年齢だろう。
「リディア様が落ち着いてこの小屋に隠れるように指示してくれたんです。私たちは魔物なんて見たことがなかったから動転してしまって、どうしたらいいのかわからなかったのに」
「ええ、素晴らしく落ち着いていました」
「そうか……リディア様が……」
えっ、なんでちょっと感極まった感じになったの?
いや、そりゃ私ってまだ6歳児だから、落ち着いて行動できる時点で異常も異常なんだろうけどさ。
しばらくして、逃げていった奴らとは別の騎士団が到着し、私たちは保護された。
これで一件落着……ってわけにもいかないだろうけど、命あっての物種だからね。
帰りの馬車で騎士から事情を聞かれたけど、どうなんだろう。
自分たちだけで逃げた第二王女派は当然に詰められるだろうけど、立場的にもこっちが弱すぎるんだよな。
こっち側はメイドと少女たちしかいないし、証言はかなり弱い……というか通るかどうかも怪しい。証拠だってあるんだかないんだか。結果として、「魔物が出たけど何者かが全部倒してくれて無事でした」という話なわけだし。
ただまあ、これでマルグレーテにはもう少しマシな護衛が付くようになるだろう。
今回は私がいて運が良かっただけなんだから。
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紋章描きの転生少女とドッペルゲンガー 星崎崑 @medici
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